お宝箱 | ナノ
怪我の功名

[大迷惑] 烏柳さまにリクエストで書いていただきました。

下手な鉄砲も数打てば当たるなんて誰が言ったのか。大量に用意された敵さんの雑魚に違う意味で苦戦した。

船内、もとい甲板にまでは侵入された。ホントに甲板までだけど。

16番隊で小銃が獲物の私は援護射撃がメイン。狙撃の腕は隊長の御墨付き。撃つと外さない(死ぬほど練習した。というか、させられた)隊長の動きを確認しつつ、他の仲間を援護してるという感じだ。

今日もいつものように死角に隠れて援護。気配で私が狙われているのは感じていたけど、やられそうな仲間を優先した結果、 後ろから迫ってきた奴に襲われた。久しぶりの、失態である。

流石に体が大きい男に背後から殴られると目眩がする。運悪くそのまま意識が遠の始めた私が精一杯撃った弾は相手の急所を若干外してしまったらしい。

霞んだ視界に下品な笑い方を私に向ける敵さんの顔が一瞬に消え、何とも表現し辛いイゾウ隊長の顔が見えた。

「カナ!!」

あぁ、助かった。この人の傍を離れずに済んだ。死なずに済んだ。床に倒れた私を抱き上げて名前を呼ばれた後の記憶は私にはない。



気付けば医務室。
気付けば頭に包帯を巻いた状態で、医務室のベッドの上で正座させられていた。目の前にはイゾウ隊長が仁王立ち。


え、私一応怪我人…だよね。

「打撲、らしいぞ」

「ご迷惑おかけしました」

「全くだ。今回はたまたま打撲で済んだ」

「はい」

「何故打撲だけで済んだかよく考えろ」

「はい」

俺が助けたからだ!なんていう簡単な理由でないことは分かってる。

女だからだ。殺すより持ち帰った方が利用価値がある。しかも、世間で言う白ひげの娘ときたら高く売れるはず。だから傷を付けられなかった、ただそれだけ。

「コブができてるらしい。飯食ったら部屋で暫く安静だとよ」

「はい」

「お前『はい』しか言ってねぇぞ」

「傷が治ったら、訓練お願いします」

ベッドの上で、頭を下げる。

「当たり前だ。お前には俺と同じく二丁が当たり前になって貰う」

お、に!

「てめぇの背中くらいてめぇで守れ」

「はい」

「っつーわけで、飯にするか」

ニヤリと笑った隊長が部屋に備え付けの机に置いてあったお盆を持ってやってくる。いや、持ったままベッドに座った。

「説教は終わったんだ、足崩せ」

「あ、はぃ…」

足を伸ばしてベッドヘッドに背を預ける。

ご飯は…リゾット。

うん、それはいい。リゾット美味しそう。サッチ隊長が作っただろうから絶対美味しい。はず。

で、私がなぜ食べないかというと。

「どうした?食えねぇのか?」

スプーンに掬ったリゾットを、差し出してくるイゾウ隊長。所謂“あーん”というやつだ。

「あの…?」

「熱いか?」

猫舌か…と一言呟くと、フーフーと息まで吹きかけられた!なんたる!

「あ、の…イゾウ隊長?」

「隊長様直々に食わしてやるのに気にくわねぇのか?」

「滅相もございません!」

慌てて食べる。このままだと意地悪鬼スイッチが。

「お前、今すげぇ失礼なこと考えたろ」

「そんなこと」

否定すると慌てて咀嚼。

あ、美味しい。

「美味いか?」

「はい!」

「俺が作ったんだから当然だ」

「は?」

「なんだ」

「作れるんですか…」

あ、しまった。失礼なこと言ってしまった。隊長は…と恐る恐る見てみれば。

恐ろしいほどの満面の笑み。


「よしよし、この一口で勘弁してやろうと思ったが、最後まで食わせてやろう有り難く思え。食わせて貰う理由が要るなら縛ってやるが…?」

「うわー、凄く美味しい。早く食べさせて下さい!」

棒読み丸出しで口を開くと満足そうな表情を浮かべた隊長に最後の一口まで“あーん”で食べさせられた。



「さて、安静しに部屋へ行くか」

満腹になると何故か感じる浮遊感に抱き上げられたと気付く。床が遠い、隊長の体温が伝わる。

「あの、イゾウ隊長」

「なんだ」

「私、足は負傷してません」

「深く考えるなカナ」

「はぁ…」

意味が分からん。
分からんが、まぁいい。こんなに甘えさせてくれるのは本当に久々だ。隊員の特権か。

まぁいいや、部屋に帰ったら今日のことをゆっくり反省して、寝よう。体調を整えて、訓練して貰うんだ。女版イゾウ隊長になってやる。

「ほぅ、俺の女版になるつもりかカナは…面白れぇ、きっちり仕込んでやるよ」

「え…?」

「全部声に出てたっーの。さて、安静にするか」

入った部屋を見て驚いた。あれ、これ私の部屋じゃない。

下ろされた布団の上。

「隊長の、部屋じゃないですか…」

「安静にしてろ、治ったら付きっきりで訓練してやる」

「いや、流石に迷惑ですし帰りますって。隊長の部屋で爆睡する寝る度胸無いですし、ホント私は打撲だけですし」


怪我してるから居座るなんて無理だ。隊長が全隊員に同じ事してるならこの行動も理解できる。

でも、こんな事を全員にしていない事くらい私にだって分かるし知っている。

「帰るな。カナがやられそうなのが見えた時、俺がどんな気持ちだったか分かるか」

立ち上がって帰ろうと思った。これ以上この人に迷惑をかけてはいけない。

「口から心臓が出るかと思った」

なのに。隣に座った隊長に抱き締められた。

「女だからって隊員1人の為に飯作ったりしねぇ、部屋に泊めようとも思わねぇよ。いい加減気付けよ、カナ…」

頬を撫でられた。

頬から熱が顔中に広がって、体全体が熱くなってきた。隊長の体温じゃない。私の体温が上がっている。


「カナが乗船してきたとき、隊長会議でカナを16番隊に入れる為必死だった」

普段は聞かない隊長の声色に、声が出ない。




「訓練なんてただの口実だ。



カナ、ずっと俺の傍に居ろ」




告白された、気がする。
いや、告白された。

ずっと遠い存在だと思ってた、思い人に。


「は…はいっ…」


緊張しすぎて声が裏返ってしまった。


けれど。


チラリと盗み見たイゾウ隊長の顔は、今まで見たことがない程の安心しきった笑顔だった。




(今日一日で、何度新しい隊長を見ただろうか。これからも隣で見続けられることを。)

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