お宝箱 | ナノ
正々堂々では、ない。

by 湾 さま
*gingerさんの「袖を引く無意識の癖」の続編になります。




「イゾウ……さん、醤油取って貰えますか?」

「…ほらよ」

カナちゃんの「イゾウ……さん」という呼び方が最近デフォルト化してきた。

2人きりの時はもう呼び捨てしてると思うんだけど。
皆の前でもだんだんと、「さん」の声が小さくなってきてるからもう一息なんだけどなぁ

カウンター越しに2人を見つめて、どうしたもんかとフゥと溜息を吐く

今日は新メニューの試食会っていうことで、開店前に皆で集まっていた
皆って言っても4人なんだけど。

私の隣では、サッチが何だか美味しそうなだし巻き玉子を焼いている。

巻く際にちぎれちゃった卵の破片を指で摘まんで、「ほれ、あーん」なんてしてくるもんだから、条件反射でぱくりとサッチの指ごとかぶりつけば「こら、まだ昼間!」なんて怒られた。

もぐもぐもぐもぐ
下心なんて無いですよ

流石サッチ、超おいしい!


「でーきた、名づけて!特製サッチが産んだ卵で巻いただし巻き玉子!」


綺麗にお皿に盛ってカウンターにドドンと置けば、イゾウさんは物凄く微妙な顔をした
きっと、名前が気に食わないんだと思う


「ネーミングセンスがねぇな、なぁカナ」

「えっ、あー、正直…」

カナちゃんも気まずい顔をしている。
自分的には割とイケてる名前だったのか、サッチは露骨にショックを受けていた

うん、サッチ
私もちょっとどうかと思う。


「…まぁ、大切なのは味だってんだよ!」


その後、皆でもぐもぐ食べてみたけど
やっぱりすごく美味しくて、名前は要検討ってことでメニュー化が決定した


「イゾウ……さん、あの」

「なんだ?」

「今度…一緒に…」


サッチと開店前の準備をするためカウンター席にカナちゃんとイゾウさんを残して、店の奥で作業をしている間も、なんだか良い雰囲気っぽい2人

だけど、あと一歩
あと一歩なんだよなぁー!

私の余計なお世話精神がウズいて仕方ない。
正々堂々、皆の前で呼び捨てさせてみたい!


っていうことで、ちょっと一芝居打たない?ってサッチに言ったらノリノリで協力してくれた。


「ねぇ、サッチー、最近お店によく出て困るよねぇ」

「そうだなぁ、駆除しないとなぁ」


わざとらしく、聞こえるように大声で話しながら2人の方へ向かう私とサッチ


「駆除?どうかしたの?」


カナちゃんがきょとんとした顔でこっちを見てる。


「んー、いやね、最近よく害虫が…」


私がカナちゃんの気を引いてる間にさりげなくサッチが黒い塊を床へポーイ

準備はオッケー。

サッチにパチリと目配せをする。
そして私は満を時して叫んだ

「あっ!!噂をすれば、カナちゃんの下にゴキ◯リー!!」

私の声に驚いたカナちゃんはパッと床を見て黒い塊を確認すると、ヒッと飛び上がる。


「えっ、!いやぁぁぁあ!!」


ここでさらに追い打ち


「あぁっ!カナちゃんの足にゴキ◯リがっ!」

「ヒッ!?いやぁぁあ!助けて!イゾウッ!イゾウ!」


半パニックになったカナちゃんは隣にいたイゾウさんの胸元に思いっきりしがみつく。



「だーいせーこー!」
「ヒヒッ!やったな」


あまりにも上手くいきすぎて、サッチと顔を見合わせて笑った。


【正々堂々では、ない。】


「突然、情熱的だなカナは。」
「イゾウ!ゴキ◯リはっ?」


事態に気づくまで、あと5秒。


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