ある日常の一幕
仕事がとんでもなく忙しかった。
この時期は仕方ないことだ。
難しくない作業でも疲れてくるとミスが出る。
自分の仕事の他に周りのこともフォローして頑張っていたら、泣きたくなるようなミスをして、イゾウさんにもロリコン部長にも迷惑をかけた。
自分の家よりも会社に近いイゾウさんの家に泊めてもらうか、会社の近くのホテルで休んでいた二週間。
久しぶりの我が家のポストには、大量のチラシや手紙が詰まっていた。
「ただいまー」
誰もいない家。
すぐにベッドで寝てしまいたいけれど、やることがある。
『今から迎えに行く』
と、イゾウさんからメールがあった。
一応、イゾウさんが来る前に軽く掃除したりしたい。
サッチの店に行くことになってるけど、きっとその前にお茶を飲んだりしてゆっくりするはずだ。
「よし」
疲れた身体に鞭打って、掃除をした。
その後、テーブルの上に置いたポストに詰まってたものを見ていく。
手紙やスーパーのチラシの他に、不動産関係のチラシも入っていて、買う予定もないのにぼんやりと眺めている。
「この間取りいいなぁ」
もし、この家に2人で暮らしたらとか。
サッチとわんちゃんがこういう家に暮らしていたらと想像しているうちに、のこはいつの間にか眠っていた。
* * *
「のこ?あがるぞ」
チャイムを鳴らしても返事がなかったが、勝手知ったるなんとやら。
イゾウが家にあがると、リビングでのこの姿を見つけた。
「あ?なんだ、いるじゃねぇか」
近づいてから気付くほど、のこは器用にチラシを見るポーズで寝ていた。
しゃがんで「のこ」と呼びかけても、返ってくるのは寝息だけ。
「のこちゃーん?ちゅーしちまうぞ?」
らしくないコトを言ってみても、返ってくるのは寝息だけ。
お姫様抱っこをしても布団に運んでも、のこは起きずに寝ている。
「のこ。飯はどうすんだよ」
ぐぅと鳴る腹をおさえて、気持ち良さそうに寝ているのこの鼻を、恨めしそうにイゾウはつまんでみた。
のこは迷惑そうに、うーんと言ったり手を動かすけれど、起きる気配はない。
「わんちゃん、やめてよぉ」
まさかの寝言にイゾウは笑いを堪えるのが大変だった。
「イゾ…さぁ……」
寝言を言って眠り続けるのこの頭を撫でてから、イゾウはリビングに戻ってサッチの店に電話した。
「俺だ。出前しな、出来んだろ?」
無理やり注文してから、出前が届くまでの暇つぶしに、のこにいろいろしてやろうとパジャマやメイク落としを用意した。
「起きない方が悪いよな」
ニヤりと笑ったイゾウは、とても楽しそうだった。
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