綴じたおもいで
のこさん誕生日おめでとう
※パラレルです。
今日のくいもの処 幸は貸切で、古くからの仲間やいつもの友人が集まっていた。
「おめでとうございます」
「おめでとうー!」
「さー、飲んで食べて脱いで!」
「え?脱ぐの?」
座敷のいつもの席にイゾウが、その隣にはのこが座っている。
その周りにはわんを始めとして、いつもの女の子メンバーが座っている。
のこの前にはご馳走が並べられていて、テーブルの横にはプレゼントも並んでいる。
今日はのこの誕生日だ。
「なあ、何プレゼントした?」
寝坊して遅刻してきたエースは、皆が何をプレゼントしたか気になるらしい。
「おれな、外の軽トラに積んであった椅子!」
一番大きなプレゼントを持ってきたのは、ラクヨウだった。
のこのために作ったとかいう椅子は、とにかく馬鹿でかいので、ひとまず持って帰れとイゾウに一蹴されていた。
「エースは?」
「今、のこがあけてるやつだろい」
座敷でわんに急かされて、次々とプレゼントを開けさせられているのこは、微妙なチョイスの連続に始終苦笑いをしている。
「タオル?エースのくせに珍しいな」
「いや、くじら。探すのに苦労したんだ!」
てっきりエースは食べ物をプレゼントするだろうと皆が思っていた。
それが実用的なものを持ってきたのだ。
驚くに決まっている。
「……なぁ、エース。話し合っただろい」
低い声で怒っているのは、一人、驚かずに渋い顔をしたマルコだ。
マルコにエースの魂胆は、バレバレなのだ。
「俺だけじゃねぇだろ!」
「何貰っても気持ちが嬉しいって喜ぶさ。どっちの“のこ”だってな」
「イゾウ……」
やれやれと言いたそうな表情のイゾウが、座敷から出てきてこっちのテーブルへ来た。
思い出す時期はそれぞれバラバラだったが、皆、共通のとある記憶があった。
この世では見たことのない大きな船と、大きな海と、不思議な島々。
共に笑い、泣き、戦い、生き抜いた記憶が。
はっきり覚えている者もいれば、ぼんやりとしか覚えていない者もいる。
イゾウは多くは語らないが、誰よりも覚えているようだ。
逆に、まったく覚えてない者もいる。
この“記憶”に関しては、思い出したくないこともあるはずだし、思い出せるとは限らない。
だから、無理に思い出させたりするようなことはしないと話し合った。
エースは納得していない。
「マルコのプレゼントした花束は“のこ”が好きだったやつだろ?サッチの作った料理だって“のこ”が好きだったやつばっかりじゃねぇか。外のラクヨウの椅子は“のこ”が一度欲しいなっていってたやつだろ?」
皆、意識せずとも前の“のこ”を連想させるものをプレゼントしていた。
記憶を思い出した者は、イゾウとのこを見ると、歯痒い思いをしている。
エースは、それが人一倍強かった。
「エースは知らないだろうが、残業してる時に鼻歌を歌ってるときがあるんだ。へったくそで、いつも同じところで音を外すんだよ。分かるか?」
「分かるかよ」
子ども扱いしたような言い方に、むすっと不貞腐れたエースだったが、その頭の中には思い浮かぶ光景があった。
洗濯を干していたり、掃除をしていたり、穏やかに何かしている時に鼻歌ではなくて歌ってる“のこ”の姿で、その歌を教えたイゾウのせいで同じところで毎回、音が外れている。
「思い出させる必要はないさ」
【綴じたおもいで】
のこを見つめるイゾウの目は、やけに穏やかだ。
「変わらず、俺の隣にいるんだ。それだけでいい」
静かに酒を飲んで微笑んでいる。
title by だいすき。
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