お宝箱 | ナノ
幸せ日和

「おはよう」
「え、あ、うん。おはよう」

朝起きると何故かイゾウさんが私の寝ているベッドに座っていて頭を撫でていた。

「ほら、髪結ってやるからこっち来な」
「あ、はい」

眠い目を擦りながら鏡台の前へ座るとイゾウさんの優しい手が私の髪を梳く感覚にくすぐったくなる。

「イゾウさん今日は早起きだね」
「まァな」

それ以上は何も言ってくれなくてどうしたものかと私は未だ理解できないでいる
よし、と頭の上から声がして目の前の鏡を見てみるといつもの髪型なのになんだかとてもいつもの自分じゃない気がして少し恥ずかしくなった。

「あ、りがとう」
「うん、可愛い」

そう言って頭を撫でるイゾウさんはやっぱりおかしい。
でもそれどころじゃない私は滅多に聞けないイゾウさんからの可愛いが頭の中でリピートしていてその場から動けないでいた。

「何やってんだ。早く来な」

イゾウさんに即されて付いていった場所は食堂。
いつもの席に座るとマルコやエースがいてサッチが丁度朝ごはんを運んでくるところだった。

「おー!来たか」
「おはよう。みんな今日は早いんだね」
「俺はいつも通りだが、エースとイゾウがいるのは珍しいよい」
「俺だってたまには早起きするぞ!よく言うだろ?早起きは三本の肉が食えるって!」
「三文の得、ね」

それそれ!なんて楽しそうに笑うみんなの顔がある朝食時は久しぶりだ。
なんだか楽しいなぁ。

そんな楽しい空間で朝食を食べ終えて一息。
手に取った湯呑が空になっていることに気づきお茶を入れに行こうと席を立つとイゾウさんが私の持っていた湯呑を取った。

「のこは座ってな。俺が入れてきてやるよ」
「え、いいよ!それくらい自分でするから!」
「いいから」

有無を言わさずにイゾウさんが厨房へ行ってしまった。
湯呑を取り上げられた手は行き場をなくし私はなんだか腑に落ち無い感じで席に座った。

「なんかイゾウさん変」
「そうか?」
「いつもと変わりねェだろい」
「イゾウはのこに優しいなァ!」

そうじゃない、優しいのは私にだってわかってる、わかってるんだけどなんでみんな気付かないのかなぁ。
いつも以上に優しいというかなんというか、甘やかされている感じがすごい。

「なに難しい顔してんだよ」
「なんでもない」

コトリ、と置かれた湯呑にありがとうと伝えてお茶を啜る。
おいしい、さすがイゾウさん。

イゾウさんは食堂を出た後も私の後に着いて来ては洗濯物を手伝ってくれたり武器の掃除や部屋の掃除を手伝ってくれたりと至れり尽くせりだ。

昼食を終えて私は何をしようかとなに気なく甲板に出た。
春島が近いからか眠たくなるくらい気候が安定している。
暖かい、このまま寝てしまおうか。

寝すぎかなぁ、なんて思いながら適当な場所に腰を下ろすと後ろからイゾウさんに呼ばれた。

「のこ」
「んー?どうしたの?」
「そんなところで寝たら体痛めるぞ」

座っていただけなのに何故わかる。エスパーか。

イゾウさんはそう言って私の隣に腰を下ろしグッと引き寄せられたかと思うとポスンと私の頭はイゾウさんの膝の上に落ち着いた

「へ?」
「寝るならここで寝な」
「え、いや、でも…」

ぽんぽんと優しく一定のリズムで肩を叩くイゾウさん。
普段は逆で、だからこの状態に慣れてない私は眠気なんか吹っ飛んでしまってドキドキが止まらない。

「なんか、今日のイゾウさん変だよ」
「どこが?」
「んー、なんかいつも以上に優しいというか甘いというか…」
「俺だって好きな女には優しくするし甘やかしたくもなるさ」

いいから甘やかされとけって言うイゾウさんはどこか楽しそうだ。
忙しなく動く心臓を落ち着かせながらもこの気候の暖かさに勝つことが出来ずに夢の中へ誘われる。

◇◇◇

「ん…」
「起きたか?」

目が覚めると今だイゾウさんの膝の上で、明るかった空はオレンジ色に染まっていて随分と寝てしまったのか、と少し後悔した。

「のこ。おいで」
「ん?なに?」
「いいから」

立ち上がったイゾウさんに引っ張られながら向かった先はイゾウさんの部屋。

「そこ座りな」

言われるがまま鏡台の前に座る。
さて、とイゾウさんは何やらいろんな物を取り出しては朝してくれたみたいに私の髪に触れる。

「のこの髪はいつも綺麗だよな」
「なっ、何言ってんの。普通だよ普通」

もう、調子狂うなぁ。
言われ慣れてないその言葉は私の感情を掻き乱す。
普段から言われてたらまた少し違うのかもしれないけれど。

「綺麗さ。髪も、のこもな。…っし、出来た。ほら、次はこっち向きな」

サイドで可愛くお団子にして結われた髪。
クイッと顎を持たれて嫌でもイゾウさんと目が合う。
恥ずかし過ぎて泡になってしまいそうだ、是非目を逸らしたい。
けど、そうさせてくれないイゾウさんはマジマジと私の顔を見る。

「肌も綺麗だし…軽くでいいか」
「な、にが…」

独り言のように呟くイゾウさんの言葉の破壊力は凄まじく、ショート寸前もいいとこだ。
何故こんな事をするのか理解しかねるがハッキリ言って本当にそれどころじゃない。
なに、なんなのよ。一体全体、誰かこの状況になるまでを説明してくれ。

「目ェ閉じとけよ」
「ねぇ、なんでこんな事…」
「のこは黙って俺に任せときな」

多分、私が何を言っても無意味だと思うから任せとけというイゾウさんに全てを托し私は黙ってイゾウさんの指示に従う。
着々と作業が終えていき、私は海賊という名の肩書が消えてしまうほど女性になっていった。

「あとはこれに着替えて終わりだが…出来るか?」

渡されたのは桜色をした綺麗な着物。

「う、ん…多分」
「出来なかったら外にいるから呼びな」

そう言って部屋の外に出て行ったイゾウさん。
着物の着方はイゾウさんに教わったから大体はわかる。
でもなんで着替えが必要なんだろう。
しかもこんな高そうなもの私が着ていいのだろうかと不安になる。
次々に浮かび上がる疑問には誰も答えてはくれなくて私はきっと言う通りにするしかないのだろう。
せめて理由だけでも教えてほしい。

「イゾウさん、着替えたけど…」

そっとドアを開けると壁に寄り掛かって待っていたイゾウさんに声をかける。

「ど、どうかな…帯がちゃんと出来てるかわからないけど」

口に手を当てて少し視線を逸らすイゾウさん。
やっぱ似合ってないのかも。
もしかして着方がおかしいのかもしれない。
やっぱりイゾウさんにしてもらうべきだったか…。

そんな事を考えているとイゾウさんがゆっくり近づいてきてフワリと優しく抱き締めてきた。

「想像以上だな」
「え?!やっぱ似合わなすぎた?」
「違ェよバカ。逆だっての。綺麗すぎてあいつらに見せるの勿体無いくらいさ」
「えっ?!は?!」

クスクスと笑うイゾウさんに私は金魚のように口をパクパクとさせるしか出来なかった。

「行くか」
「え、どこに?」
「ついてくればわかる」


そう言って歩き出すイゾウさんの後ろを必死に追いかける。
何を言っても何も言わないイゾウさんに不安を感じつつ着いた場所は食堂の扉の前。

なんで食堂?まだ時間じゃないよね?
そう思いながらイゾウさんに視線を向けると中に入れと視線で訴えられる。
なにがなんだか分からないまま食堂の扉を開けると、パーンという破裂音が鳴り響き私は目を丸くした。

「え…え?」
「ハッピーバースディー!のこちゃん!」

中には家族みんなが集まっていて誰が作ったのか、のこちゃん誕生日おめでとうという垂れ幕まで飾られていた。

「すげー驚いてんじゃね?」
「大成功だなー!」

驚きすぎて言葉もでない私にみんながおめでとうと言って肩を叩かれる。
もー…なにこれ嬉しすぎる。
じわりと視界が滲んでいく。

「泣くくらい嬉しいのかよい」
「っしゃー!野郎ども!親父の許可は取ってある!今日は盛大に祝うぞー!」

サッチの一言で私の誕生日会という名の宴が始まった。
なによ、みんなして。全部知ってたんじゃん。
演技派かコノヤロー

「良かったな」
「イゾウさん」

この中でも、多分一番頑張ってくれたのはイゾウさんで今までの行動は全部私のためだったんだと思うときゅうぅっと胸が締め付けられた。
だってあのイゾウさんが、だよ。
普段じゃ絶対聞けない言葉だったりしてくれない行動だったり、不思議だったけどこうして忘れていたものを思い出してなんだ、そういうことか。と納得も出来たし。

「因みにその着物は俺からのプレゼントだ」
「えぇぇ?!こ、こんな高そうなもの貰えないよ!」
「俺がのこにあげたかったからいいんだよ。受け取っとけ」

優しく笑うとイゾウさんは私の髪をそっと撫でる。
敵わないなぁ、この人には。

「なんか今日はイゾウさんにドキドキさせられっぱなしだよ」
「良かっただろ?」
「心臓に悪いデス」

本当にきゅうぅって締め付けられすぎて困る。
イゾウさんはそれをわかっててやってるのかもしれないけど、たまには、から毎日にかわったらなぁ、なんて欲が出そうで怖い。
これ以上幸せにさせてどうする気だこの人は。

「のこ」

不意に名前を呼ばれイゾウさんの方を向くとチュッと可愛い音を立てて唇が触れた。

「誕生日おめでとう」
「…ふへへ、ありがと」

へにゃりと笑ってイゾウさんの手を握り早いうちに酔っ払っては楽しそうにお酒を酌み交わす家族たちに目を向けた。

【幸せ日和】

Happy Birth Day!
のこさんにとって素敵な一年になりますよーーにっ!

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