お宝箱 | ナノ
明日ありと思う心の仇桜

のこちゃんおめでとう!!







「…………、……」

「イゾウ隊長?」


グランドライン後半の海、新世界

広く、果てなく続く藍色の海を進む巨大艦船、モビーディック号

すっかり陽が沈み、昼間とは変わる海を見つめる1人の男に、私は小さく声をかけた


「……のこ、か」

「はい、すみません。親父が、呼んでいますよ」

「そうか」


甲板に積まれた酒樽に腰かけていたイゾウ隊長は、トン、と音を立てながら静かにこちらに足を向ける

すまないな、
私とすれ違う際に、イゾウ隊長は屈みながら私の耳元に位置を合わせてそう呟いた


「い、え」


ツン、と鼻を霞める仄かに甘い匂い
なんだか馴染みのある匂いは、私が好きな花の香りに似ているせいか、それとも停泊しているこの島に、大きく地を着くあの花が風に乗せて香りを運んでいるせいか

そんなことよりも、静かに遠ざかる背後の足音に、息が出来ないほどに胸が痛い


「……ふぅ」


背後から完全に気配が消えた事を確認して、私はイゾウ隊長が先程まで腰かけていた酒樽にストン、と腰をおろす

目の前にゆらゆら揺れながら、海へ散る花びらをみて、ああ、なんて綺麗な季節だろうと胸が熱くなった


あの花のように、私は美しい女性でありたい

イゾウ隊長のそばに、いられるような美しい女性で



しばらく何も考えず、静かにサァサァと流れる波をみていれば、どれくらい時間が経ったのだろう


「のこ」


ふと、呼ばれた声に、私は言葉が出るよりも先に振り返る

そこには海よりも、花よりも美しい、大好きなイゾウ隊長がいた


「あんまり風に当たると、冷えるぜ」

「あ、はい」


ドキンドキンと速くなる鼓動のせいで、上手く言葉が繋がらない
フッ、と笑うイゾウ隊長があまりにも綺麗で喉が鳴る


「……親父との、用は…済みましたか」

「ああ」

「あ、すみません、私」


イゾウ隊長とは隊が違う
私は4番隊だ

イゾウ隊長は、16番隊


あまり話す機会なんか、なかなかないもので、
今日は食事帰りに自室に戻ろうとすれば、親父に会った


「イゾウに俺の所へ来るように伝えてくれ」


グララララと大きく笑う親父に、私は「へ?」と間抜けに首を傾げた

そこにいたのが私だけで、なおかつ急ぎであるならば話はわかる
でもあの場には、自隊の隊長であるサッチ隊長もいたし、聞けば急ぎではないとまた大きく笑われた


「わかった」
二つ返事を返して、私はイゾウ隊長を捜していたわけで
甲板で1人佇むイゾウ隊長を見つけた時はあり得ないくらい心臓が跳ねた




「何を、見ていたんだい?」

「あ……。花が、綺麗で」

「桜、か」


淡く、柔らかな色を染めた綺麗な着流し
袂に手を入れて、私の傍まで来たイゾウ隊長はそう言って私が見ていた花に顔を向けた


「あれは、すぐに散る」

「え」

「みなが待ちわびて、咲けば人の心を掴んで離さない、そんな花だ」

「すぐに、散るなんて。なんだかもったいない」

「それで良いんだ」

「え」



フッ、と笑って
今度は私に視線を合わせた


ドキン


今日一番の、大きく大きく胸が熱い
イゾウ隊長と目が合うなんて、ましてやこんな近くにいるなんて、
私はどうしていいかなんて、わからない



「綺麗だな」

「は、い。桜……は、本当に綺麗です」

「…明日ありと、思う心の仇桜」

「仇桜?」

「知ってるかい?」

「いいえ」


海に散り、ゆらゆら揺れる桜の花びらに、イゾウ隊長はそう言った


「どんなものでも、明日どうなるかはわからない。綺麗な花を付けた桜も、明日にはこの海に散り行く」

「……儚い、です」

「ああ、だから、今が大切なんだ」



ザァ、と強く吹く風に、自分の長い髪がバサバサ音をたてる
片手で押さえつけ、なんとか顔を上げればイゾウ隊長とまた目が合った


「……っ」


頬に当たるひんやりとした体温はイゾウ隊長のもので、
目を見開く事しか出来ない私にイゾウ隊長は自分の髪をまとめていた簪を取る



「隊長っ、」

「綺麗だな」


その簪で、バサバサ揺れる私の髪をまとめてくれたイゾウ隊長

隊長のように、美しく、長い髪に憧れて伸ばしたものを今、イゾウ隊長の簪で止められている事に、恥ずかしさと嬉しさが混ざる


「お前さんは、本当に綺麗だ」



【明日ありと思う心の仇桜】


明日どうなるかはわからない、そんな花のように
イゾウ隊長が大好きな、あの桜のように、
私はなりたい



「隊長…好き、です」


そっと頭を撫でるイゾウ隊長の手が、少しだけ熱い事に私は期待した


明日、今日とは違う
どうなるかはわからない未来に
あなたの傍に私がいれますように



【happy happy birthday!!のこちゃん】

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