04.グランドライン商店街
「あ、カナさん。おはようございます」
「たしぎちゃん、おはようー」
たしぎちゃんは商店街にある交番勤務の婦警さんだ。
たまにドジもするけど、一生懸命な様子が可愛くて密かに憧れてる若い商店主も多いらしい。
それなのに誰もアプローチしないのは、上司のスモーカーさんの存在の所為だってうちのマスターが言ってた。
スモーカーさんは悪い人じゃないけど、確かに見た目も性格もちょっと…かなり怖い。
でもそんなスモーカーさんの目を掻い潜って、しょっちゅうたしぎちゃんにちょっかい出しては鼻血を出して帰って来るマスターが言うのはどうかと思うんだ。
「今日はスモーカーさんは…?」
「通学路の見廻りですよ。だから大丈夫です」
よかった。
立ち話をしてるのを見られると、あの怖い顔で睨まれちゃうから。
「休憩になったらお店に来てねー」
「はい、行ってらっしゃいカナさん」
今日は早番だから開いているお店はまだ少なくて、降りたシャッターの向こうから漂う仕込みの匂いに包まれながら歩く。
超新星と呼ばれる外資の大型スーパーに負ける事なくここの商店街は元気で、人の暮らす気配が温かくて気に入っている。
――カラララン
「おはようございまーす」
耳心地の良いドアベルの音と共に、バイト先である喫茶店『メリー』に入る。
「カナちゃ〜〜んおはよう、今日もかわい…ん?顔色悪いね。レディが寝不足?」
いつもなら朝からウザいマスター…サンジさんの挨拶も、今朝のあの出来事に比べたらよっぽどマシに思えた。
あ、せっかく忘れかけてたのに思い出しちゃった。
「大丈夫です。昨日引越しだったのでちょっと」
話しながらカフェエプロンを身に付けて、モーニングの為のテーブルセッティングを整える。
「あー、カナちゃん白ひげ荘に引越したんだっけ?」
「です。住人というか、管理人ですけどね」
「あんな男だらけの場所…何か有ったらすぐに逃げておいで?いつでも受け止める準備は出来「お気持ちだけ頂いておきマス」…冷たい所も可愛いよ!カナちゃん!」
はぁ…
きっと今日の占いは最悪だったんだな、私。
「ま、それはそうと白ひげ荘の人もウチのお客さんだからさ。特にあの人…髪の長い」
サンジさん、男の人の名前殆ど覚えないもんなぁ。
流石に知らないとは言えず、仕方なくその名前を口にした。
「…イゾウさん、ですか?」
「確かそんな名前。でもカナちゃんは夜遅くは入らないから、会った事無いだろ?」
まさかイゾウさんがメリーのお客さんだったなんて。
…いやいや、例えお客さんといえども、アレは容認出来ない。
まだ起きてから2時間も経ってないのに、何だか今日が半分終わった位の疲労感に包まれて、大きな溜め息を吐きながら看板をオープンにした。
(n)
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