01.始まりはここから


カラカラとキャリーバッグを転がしながら向かった先はこの辺りで知らぬ人はいないであろう大豪邸。
緊張の面持ちで玄関のチャイムを鳴らすと見知った声が聞こえてきて安堵した。
すぐ行く、とだけ言われ待つこと数分、言葉通り本当にすぐ来た親父さん、ことエドワード・ニューゲートさん。
白ひげ株式会社の会長さんで皆から親父と慕われている。
もちろん私も親父さんと呼ぶし、本当のお父さんのように思っている。

「待たせたな」
「ううん!大丈夫!」
「そうか。ついて来い」

先日、親父さんに私にぴったりな住み込みのバイトがあるんだが、と言われ二つ返事をした。
家の家賃が少々高めだったし、バイトをもう一つ増やそうかと悩んでたところだった。
そんな時に家付きのバイトでお給料弾む、なんて言われたら飛び付くに決まってる。
なにより一応は親父さんの元での仕事なわけだし安心して働ける。
一体どんな仕事なんだろうかワクワクする。

「ここだ」

連れて来られた場所は親父さんの家のほぼ真裏に位置し、入り口には白ひげ荘と書かれていた。
玄関先には綺麗に彩られた花が咲いていて外装も割と綺麗なアパート。
ここで新しい生活が待っていると思うとドキドキして仕方が無い。

玄関を入るとロビーのような場所にテーブルやソファー、ご丁寧にテレビまで置かれている。
ロビーの奥の部屋を開けると共同キッチンが設備されていて、部屋にも一応は小さなものがついているらしい。
因みにトイレもお風呂も部屋にあるとのこと。
なんだここ、ホテルみたい。

「カナ、お前の部屋はここだ」

一階の紹介が一通り終わり、階段の横の最後の扉の前に来た時親父さんに言われた。
私は一階なのか。ということは他の方々はみんな二階にいらっしゃるんですね。
一人でうんうんと納得していると親父さんがとんでもない爆弾を投下した。

「因みにバイトってのはここの管理人だ」
「あー、管理人さん。…えぇっ?!管理人さん?!」

管理人ってあの管理人ですか?!
口煩いお節介焼きでお喋りなおばさんがしてそうなあの管理人ですか?!
驚きのあまり言葉を失った私はただただ親父さんを見つめるしか出来なかった。

「グララララ!そんなたいしたもんじゃねェ。カナはただカナらしくここに住んでくれたらいい」
「わ、私、らしく?」
「あぁ、此処にいる奴らはちょっと癖があるからなァ」

グラララと豪快に笑う親父さんを他所に私は不安でいっぱいだ。
でも折角親父さんが私を必要としてくれるんだからそれに応えないといけない。

「親父さん、私頑張るね!」
「何かあったら連絡寄越せ」
「うん、ありがと!」

今日からここが私の家だ。
管理人でもなんでもやってやろうじゃないの!

そう気合をいれた時、後ろから親父?と誰かが親父さんを呼ぶ声がした。

「マルコ、帰ったのか」
「親父がこんなとこに来んのは珍しいな。どうしたんだよい」

ビシッとスーツを来た変な髪型の人が驚いた表情でこちらに近づいてくる。
この人もここの住人の方なのかな?
胸元のピンバッジを見る限り親父さんの会社の人だということはわかった。

「丁度いい。マルコ、カナだ。今日からここの管理人になった」
「は、初めまして!カナです!」
「…マルコだ。よろしく」

機嫌が悪いのか睨むように見られている気がして少し萎縮してしまう。

「たっだいまー!って、親父っ!!来てたのか?!」

元気良く帰って来たのは爽やかなそばかすボーイ。
親父さんを見るなり嬉しそうに走って来てそのままぎゅうって親父さんに抱きついた。
可愛い。本当に親父さんが好きなんだな。

「グララララ!エース、相変わらずだなァ」
「毎日うるせェだけだよい」

頭を掻きながら呆れたように言うマルコさん。
その姿から本当に毎日元気なんだろうなと安易に想像出来てしまった事に苦笑いが零れた。

「来るならメールしてくれよ!メール!ん?誰だ?こいつ」
「あ、初めまして!今日からここの管理人になりました。カナです」
「俺はエース。よろしくな!」

人懐こい人だな。
にっこりと笑って差し出された手を握るとブンブンと上下に振られる。
い、痛い、肩が取れる!
やめてやれよい、とマルコさんの一言で悪い悪いと悪びれも無くそう言って手を離してくれた。

「サッチとイゾウはどうした?」
「サッチは仕事に行ってるよい」
「イゾウも多分どっか行ってるぞ」

他の住人の方はサッチさんとイゾウさん、か。
どんな人達なんだろ。
優しい人だったらいいな。

「まァ帰ってきたら嫌でも顔合わせるだろうよい」

それもそうだ。
家はここなんだから帰ってきたら挨拶しに行けばいいか。
そして、帰ると言う親父さんを見送るために皆で玄関まで足を運ぶ。

「親父さんありがとう」
「あぁ。お前ら仲良くしろよ」
「じゃあな、親父ー!!」

大きく手を振りながら親父さんを見送り中へと戻る。
さて、私も荷物整理しなくちゃ。
今日ここから私の新しい生活が始まるんだ
親父さんにも言われたように私は、私らしく。
持ち前の明るさと根性で何があっても乗り越えてやるんだから!

(s)

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