Truth | ナノ

  56.願いは、ひとつ


「ただいま…!」

ぎゅっと抱き締めて、抱き返されて

人の気配にイゾウさんの肩越しをチラリと覗き見れば、テンガロンを顔に乗せて浜辺に寝転がるエースが見えた。
ごめんね、エース。もう少しだけお昼寝してて?


「リリィ…」
「はい?」
「先と後、どっちがイイ?」
「…今」

クツリと喉で嗤ったイゾウさんにすとんと降ろされ、至近距離で正面から見下ろされて言葉に詰まる。
ざあざあと、静かに打ち寄せる波の音に背中を押され、反らさず真っ直ぐ見上げ口を開いた。

「…ごめんなさい」

迷惑をかけて、とは言わない。でも、心配はかけてしまったから。

「よく…無事に帰って来たな」
「オヤジさんが守ってくれたの。それに、帰れるって思い続けた…モビーに、イゾウさんの所に帰らなきゃって」

まだ何も話していないのに、イゾウさんは分かってるみたいだった。私の心と身体が、あの船だけに在ったんじゃない、と云う事を。

「そしたら…イゾウさんに呼ばれた」
「リリィが呼んだから応えただけさ。最初の夜だったか?」

どくん…と心臓が音を立てて大きく跳ね、息を飲む。上ずる声を隠す事も、じわじわと熱くなる頬と瞳の奥を抑える事も出来ず。
ゆっくりと、再びイゾウさんに伸ばした腕を絡めるより先に、強く引き寄せられる。

「う、そ…。聞こえたの…?」

返事は無く、静かに微笑むイゾウさんを見上げれば……ちゃんと繋がってたんだ、と。

「言っただろ?行きてェ場所を見とけば行ける、ってな」

私を守って導いて包んでくれる、大切な愛しいひとの腕の中。

「うん…だから、迷わなかっ…た」

張り続けていた緊張の糸が静かに静かに切れ、滲んでいた涙は一気に塊になり零れた。

「何処で何して来ても構わねェが、俺の“手の届く場所”に居ろよ?」
「うん、もう何処にも行かない。ずっと“ここ”に居る」


それは、願望に似た確信。


「イゾウさんの所に、ずっと居る」


そう言い切れば私の頬に触れたイゾウさんの手に力が入り、つい、と顎を撫でられる。涙の止まないままの瞳を閉じると、ひやりとした口唇が目蓋に触れた。

「ひゃ…」

そのままゆっくりと涙の線を掠めた口唇が口の端でピタリと止まり、さらりと髪を掻き分けた指が耳朶を擽った。

「おかえりリリィ、……」
「…え?」

疑問の声は遮られ、優しかったのはほんの一瞬。
すぐに全ての隙間を埋める、熱くて強い貪る様な口づけに変わる。その甘さにくらくらと眩暈を起こしそうで、回した腕にぎゅっと力を込めた。










「エース、お待たせ!ただいま!」

寝転ぶエースのテンガロンを持ち上げ覗き込めば、眩しそうに目を瞬かせてニカっと笑い返される。

「おう、おかえりリリィ。イゾウ、なんでリリィ泣かせてんだ」

変わらない笑顔で気遣ってくれるエースの言葉で笑い、嬉しさで私の涙腺は再び崩壊した。


増えた記憶の何処を探しても、こんなに泣いた記憶は見つからなかったし、もう見つからなくていい。


「よっしゃ…モビーに帰ろうぜ!」



この世界の全てが
キラキラとして、眩しい。

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