Truth | ナノ

  54.月が傾いて光が見えて




「お頭」
「分かってるって。ちょっと悪いなリリィ、ここに長居はしたくねえんだ…よっと」
「うわ…!」

がしっと乱暴に、太腿を一抱きにされ肩に担がれた。横抱きなんて柄じゃないけど、これはこれで…何とも言えない気分。

(あ…赤髪さん、腕が…)

赤髪さんの肩にだらんと身体を預けると、腰に提げた剣に目が止まる。片方しか無い腕で私を担いで、もし…なんて考えは、杞憂なのかも。きっとこの人は、そんな次元じゃないんだろうな…

「他に興味はねえ。あんたらのバックにもな。黙って通して貰えれば手間が省けて有難いんだが」

穏やかな様で有無を言わせ無い口調の赤髪さんに、静まり返った空気が僅かに揺れた。
“赤髪”に刃を向けようなんて命知らずは、そもそもこの船には居ないみたいだった。

「物分りが良くて、助かるよ」

ニヤリと笑い、空けられた道をゆっくりと歩くその姿に、これが皇と呼ばれる人なんだ、と。
四皇と云えばいつも穏やかなオヤジさんしか見た事が無かった私は、その名を戴く人の凄さを思わぬ形で知る事になった。





* * *


レッドフォース、というのが赤髪さんの船の名前だった。
モビー以外の海賊船も海賊も初めてで、その大きな違いに驚く。
一番の違いは――

「白ひげんとこと比べたらウチは少ねえだろ?見た目はアレだが気のいい奴らだから、怖がらないでやってくれ」
「大頭、アレってひでーな!」
「本当の事だろう」
「副船長まで言うかね!?」

本当に、人が少ない。
これで全員では無いんだろうけれど、モビーと比べたらその差は歴然だった。
モビーはオヤジさんを慕ってその下に皆が集ってるけれど、ここは赤髪さんとその仲間たち、って感じ。

「騒がしくてすまないな」
「いえ。私、この船も好きですよ」

仲間とじゃれ合う赤髪さんの笑い声は、ここへ来てからずっと止まない。
モビーの空気とは違うけれど、ここにも温かさがある。モビーへ来るまでの私の人生に、そんな場所で過ごした時が有ったっけ…?

「お頭、そろそろ話を進めたいんだが」

ベンさんの声に、我に返った。
過去の事を考えるのは後にも出来る。
今は少しでも早くモビーに、イゾウさんの所に帰りたい。




赤髪さんと三人、海図室の様な部屋に入ると、目の前に電伝虫が置かれた。
モビーで見たのと違う顔で、可愛い…

「白ひげの番号、分かるか?」
「…イゾウさんのなら」
「イゾウ?ああ、あいつか。へえ…」
「へえ…って何ですか!?私何も言ってませんよ!?」
「リリィって面喰いだったんだな」
「はい!?…ってあれ…赤髪さん、何で私の名前…」

自分から名乗った憶えは…無い。
三本傷のついた方の目を軽く歪ませると(多分ウィンクしたつもりなんだと思う)それには答えず私の頭をくしゃっと撫でた赤髪さんの横で、ベンさんがまた小さくため息を吐いた。
この人きっと、マルコさんと話が合う…。



『ぷるるる…ぷるっ…』

怠そうな呼び出しの声が思いの外すぐ止まる。ゆっくりと開いた電伝虫の目は、不審感をたっぷり湛えていた、けれど…

イゾウさんが、居る…

室内ではない、雑音の中。
電伝虫越しでもはっきりとイゾウさんの気配がして、息を飲む。

「…もしもし、イゾウさん…?リリィです」
「…何でそこに居る…?」
「私にもまだよく分からないんだけど…」
「…無事なんだな?」
「うん、大丈夫」

初めて電伝虫越しに聞くイゾウさんの声に、ぎゅっと心が軋む。
声は聞こえるのに、まだ触れられないなんて…

「なら今はいい、赤髪はそこに居るのか?」
「うん、ちょっと待っ…」
「え?リリィ、シャンクスと居んのか?」
「エース!?」
「お、リリィ。なんだ、すげえとこに居るな!」
「エース、ちょっと黙んな」

モビー、だ…

確かにそこにはモビーが有った。まだ多分、離れて一日くらいしか経っていないのに…

「…泣いてんじゃねェよ、リリィ」
「え?あれ…?何で分かるのイゾウさん…」

いつの間にか頬を伝っていた涙に触れると、イゾウさんが小さくため息を吐く音がした。

「…待ってな。直ぐに迎えに行く」
「うん…!」

「だーっはっは!わっかいなあ!」と独り大笑いする赤髪さんを苦い顔で押し退けたベンさんが、私から電伝虫を取ってイゾウさんと話し始めた。

ベンさんは、マルコさんより苦労しているかもしれない…


モビーに帰れる。
そう思えば、涙はいつの間にか止まっていた。

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