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  34.眩し過ぎる星、何光年先か




ドクターからとりあえず完治のお墨付きを貰えた私は、翌日からまた軽く身体を動かし始めた。


その日は朝から色々バタバタしていて、マルコさんが新聞を読み始めたのはいつもより遅い時間だった。
ちなみに…イゾウさんは不寝番明けで、まだ夢の中だ。


「…にしてもリリィ、最近機嫌がイイねい」
「そうですか?普通ですよ?」

特に変わったニュースの無かった新聞に軽く目を通し終えたマルコさんは、温くなったコーヒーに口を付けながら思い出した様に呟いた。

「でも…良い事なんて無いのが普通で、悪い事が無かったらその日は良い日だと思ってるから…毎日結構楽しいです」
「随分とポジティブだねい。案外リリィは海賊に向いてるかもしれねえな」
「褒めて貰ってる気がするけど…複雑」

そう言うと珍しく声を出して笑ったマルコさんは、椅子の背凭れから身体を離し空になったカップを置くと、机に肘を付いて少し声を潜めて話し出した。

「今更かもしれねえが…このままモビーでいいのかよい?あんな事も有ったしな、海が怖えとか海賊船は不安つーなら、陸にもツテは有るよい」
「…ホントに今更。でも海は好きですし、今船を降りろって言われる方が不安ですよ?」

気遣いは嬉しいけれど、イゾウさんと離れるなんて…と思った心の内を知ってか知らずか、マルコさんは満足そうに少しだけ表情を緩めた。

「それならよい、リリィ」
「はい?」
「モビーに腰を据えるつもりなら、16番隊に所属するか?」
「…え?」

私みたいなのが隊に所属するなんて、考えた事も無かった。イゾウさんの16番隊だと言うのは、勿論嬉しい事だけど…

「もちろん所属するからには買出しや掃除くらいはやって貰うけどな…戦闘はやらなくていいよい。ま、やりたいってならおれは止めないけどねい」
「やりませんよ!?でも…良いんですか?」
「ん?」
「だって…」
「細けえ事は気にすんなよい。単に正式にイゾウに預けるっつー事だと思っときゃいい。難しく考えるなよい」

「ありがとう、マルコさん。そしたら…それをイゾウさんに伝えるの、私がしても良いですか?」


私の意図に気付いたマルコさんは、「リリィの好きにしろよい」と一言返事をすると、私の頭をぽんぽんと撫でて食堂を出て行った。



* * *



爽やかな風を受けてピンと張った帆が、大きなモビーをスイスイと進ませる。
ピカピカに磨かれた甲板には大きな帆が濃く影を落とし、日陰を作る。



「うーん…上手くいかない」

首を捻る私を見て、イゾウさんはクツクツと笑いを零す。

「見事な外しっぷりだな」
「ちゃんと狙ってるのに…」

天気が良かったので甲板で本を読んでいたら、陽が高くなった頃ようやくイゾウさんが起き出して来た。

「止まってりゃ完璧なのにな。動いたら別人みてェじゃねェか」

何故かそれなりに扱う事が出来た銃。
せっかくなので、イゾウさんにきちんと教えて貰う事にした。
進んで使うつもりは無いけれど、それでも何かの時に誰かの負担にはなりたくはないから。

「リリィの撃ち方は教本みてェだからな。実戦向きじゃねェんだよ」
「実戦とか…やらないから困らないし」

動きながら撃ってみろと言われてやった結果がコレだ。
上手く行かなくて何となくホッとしたけど、それなら益々何でこんなモノが扱えるのか…結局疑問だけは残る。

「基礎と身体は出来てんだから、そのうち慣れるだろ」
「あんまり慣れたく無い…」

ぺたりと座り込み視線を上に逸らすと太陽が眩しくて手で庇を作る。
いつの間にか強くなっていた陽射しの所為で、薄っすらと血管が透けて見えた。

ここの人たちと同じだと言う私の血。

指の間から溢れる光が眩しくてぎゅっと目を瞑ったら、スッと目蓋越しでも分かる位に暗くなった。
目を開けてみれば、イゾウさんが太陽と私の間に立ってくれていて、それはそれで眩しくてきゅうっと心が鳴いた。

「護られてばかりなのは性に合わないみたいだし、頑張ろうかな…いつかイゾウさんみたいになれるかなぁ?」

横に並ぶなんておこがましい事は言わないけど、少しでも近くを歩ける様に。

「なれるもんなら、なってみな?」

ククッと喉で笑ったイゾウさんの表情は逆光で見えなかったけれど、きっと小憎らしい位に自信たっぷりな悪い顔をしてるんだ。

「尤も…俺も留まっちゃいねェからな。一生かけて追い掛ける位の覚悟で付いて来な?」


「………頑張りマス」




――今日も、良い日だ。

少しずつ、一歩ずつ
私はこの世界に馴染んでゆく。


沢山の心地良さと
少しの歯痒さを伴って。

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