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  33.monophonic




食堂に部屋に甲板…私の知る範囲の思い付く場所を周るも、イゾウさんの姿は見当たらない。

雲行きが怪しく仄暗い空が落ちて来そうな嫌な空気に、無意識に両腕を掻き抱いていた。



(うー、イゾウさんのバカ…こんな時に見つからないなんて…)


心の中で悪態をつきながら再び食堂の横を通ると、さっきより賑やかな声に釣られて中を覗き込む。

「あ…イゾウさん…」

思わず口を衝いた呟きはイゾウさんの耳に届いてくれて、すぐにこちらに来たイゾウさんは私を押し出しながら食堂の扉を後ろ手で閉めると、ついと指で私の頬を撫でて僅かに眉を顰めた。

「…そんな顔して、どうした?」
「あの、…今大丈夫ですか?」

私のその口調に、そのまま眉を深く顰めながら口を開こうとしたイゾウさんの胸に手を当てて制す。

「今は…ごめんなさい。ちょっと余裕が無くて…」

小さくそう言えば、すっと表情を戻したイゾウさんに手を引かれ、廊下の隅に導かれる。

「どうした?」

イゾウさんの陰で他から見え難いのをいい事にそっと袖を掴み見上げると、ようやく気持ちが少しだけ落ち着いた気がした。

「この間怪我した時に血液検査したんですけど…その結果を一緒に聞いて欲しくて…」
「…どういう事だ?」
「悪い結果じゃないってエリンは言うんだけど、何か言い淀むって言うか…」

いつの間にか強くなっていた袖を掴む力が、ぽすんと頭を撫でられてふっと緩む。

「分かった。ここで色々言ってても仕方ねェしな。今からでいいのか?」
「うん、大丈夫みたい」
「悪くねェって言ってんなら大丈夫だろ。そんな泣きそうな顔してんじゃねェよ」
「…そんな顔、してないし」

本当はイゾウさんが見つからなくて少し不安だったから…なんて、絶対に言えない。
それでもきっとイゾウさんには分かってしまうんだ。


だって、医務室まで歩く道すがら引かれた手を、いつもより少しだけ強くしっかりと握ってくれていたから。


* * *


「――F型??」
「ええ、こちらでは一般的な血液型よ」
「へ…?」
「何情けねェ声出してんだよ」
「え、だって…」

そのF型って言うのが、私の知る何型になるのか分からないけど…すっぽりとこちらの型に収まってしまった事に、正直少し驚いた。

「何処かしら違いは出ると思ってたのだけど…特に変わった点は無かったの。尤もウチにはリリィ以外のサンプルが無いから、比較のしようが無いのよ」

私もずっと書庫で記録を探し続けている。でも未だに似たような状況の記述はの本は見つけられなかった。

「とにかく、とりあえずはこっちの医療には全て適応出来るって事だろう?なら問題無しじゃねェのか?」
「血液検査の結果だけ見るなら、そういう事になるわね。だからって、無茶な事させないで下さいね?」
「俺はリリィの保護者じゃねェよ」
「あら、恋人なんだから似たようなものでしょ?ね、リリィ」
「え、あ…うん?」

問題無いのが問題…って事なんじゃないかと、二人のやり取りを見ながらぼんやり考えていた。
イゾウさんもエリンも、そこに思い至っていない訳では無いと思うけれど、きっと私が余計な事を考えない様にと気を遣ってくれているんだろう。

(あー、何かダメだなぁ…)

答えの出ない事を考えて立ち止まらない様にしたいのに。
断片的に身体が思い出す行動記憶に、入口も出口も見えない今の状況。

何一つ解決しないまま、嵌らないピースだけが積み重なって行く。

(あ、入口と言えば…)

ふと浮かんだそれは、何で今まで思い付かなかったのかが不思議なくらいで。


「オヤジさんと話してみようかな…」


もう少し自分の中で考えを整理したら…オヤジさんに会いに行こう。
初めて会った時の穏やかな目付きが不意に思い出されて、ふふっと笑いを零した私の手に、イゾウさんの大きな手が重なった。


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