Truth | ナノ

  32.symphonic




まだ薄暗い室内。
波の音と揺れが気怠い空気と馴染んで心地良く、少しずれた毛布を手繰り寄せる。

「んん……」

サラッとしたシーツが直接脚に触れる感触にもぞもぞと身体の位置を直そうとして…自分以外の人の温もりに気付いた。

「あ…」

傷の無い方を下に横を向いていた私の背中に回された腕。頭を乗せていた肩の窪みから近い、薄く上下するイゾウさんの胸元がぼんやりとした視界に映る。

緩く羽織っただけの浴衣の襟元に手を添えてその胸元にすりっと頬を擦り寄せると、はしっとその手を掴まれ、優しく抱き込まれた。

「っ…起きてたんですか……?」
「ん…あァ…。たった今な」
「イゾウさんが起きるには、まだ早いですよ…?」
「…話し方、戻ってるじゃねェか」

ゆっくりと覚醒する意識と共に鮮明に思い出される夕べの記憶。

意識した訳では無く、単に癖になっていただけの言葉遣いを直せと急に言い出したイゾウさんは、何も今言わなくても…と抵抗する私に……とにかく最後は無理矢理直されたような状態になり……それはもう大変だった。

「だからもう、癖なんですって、ば…」

言ってしまって恐る恐るイゾウさんを見上げれば、へぇ…とでも言いたげな顔が見える。

「う…頑張る。イゾウさんて、ホント何してても全開でイゾウさんで何かヤダ…」
「そうか?俺は意外と初心な反応のリリィは悪く無かったけどな」
「あっ、あれは…!ち、違うの、その…」

意外となんて失礼な…と思いつつ、ぼん!と音をたてて熱くなった顔を慌てて背けるも、抱き込まれたままでは大して逃げられる筈もなく。

「何が違うんだ?」
「うー…絶対に笑わないなら…」
「聞いてみなきゃ分からねェよ」

もはや常套句の様なイゾウさんの返しに、これは逃げ切れないと意を決して口を開く。

「…あの、多分初めてではないけど…その、相手の有る事だから…記憶が抜けてて…、だから何て言うか……あぁ、もうっ!後は勝手に想像して下さいっっ」
「ってコトは…」

天井の隅を見ながら僅かに逡巡したイゾウさんの口元が解りやすく弧を描き、満足げに私の頬を撫で髪を弄る。

いつまでも熱の抜けない身体はきっと指先まで真っ赤で、イゾウさんの少し冷たい手の温度が気持ち良くて身を委ねた。

「…あァ、そうだリリィ。暫く髪は下ろしとけよ?」
「え??」

思い出した様にそう言うと、首の後ろに手を入れ私の髪を掻き上げたイゾウさんは、晒した首筋に軽く触れ耳元で囁いた。

「怪我が治るまでは、見える所に付けられねェからな」
「……!!!」

傷が痛むのなんて気にしてられず、全力で身体を捩ろうとした私を易々と抱え込みながら、イゾウさんは心底楽しそうに笑った。



* * *



「もう大分快いわね。使った薬剤の副作用も無かったし、戦闘以外なら自由に動いて大丈夫よ」
「戦闘って…そんな事しないし…」
「あら、リリィなら無いとは言えないでしょ?」

クスクスと笑いながらカルテに何か書き込んだエリンは、パタン、とファイルを閉じると不意に真剣な表情になった。

「ねぇ、リリィ。あなたの身体の事なんだけれど」
「…うん?」
「治療する時に採取した血液を検査して、結果が出たの」

どくん…と鈍い音をたてて心臓が跳ねた。

「独りで聞く?それともイゾウ隊長でも呼ぶ?」
「…良くない、の…?」
「そういう訳では無いんだけど…何と言ったらいいか…表現が難しいわ」

ごくりと唾液を飲み込む音が直接耳に響く。

悪く無いならそれでいい。何か有って当たり前なんだから――必死に自分にそう言い聞かせる。

「自分で上手く説明出来るか分からないから…イゾウさん呼んで来ます」


ぎゅっと口唇を引き結んで、イゾウさんを探しに船内へと向かった。

陽の当たらない廊下のひんやりとした空気に混ざり、言いようの無い不安が足元からじんわりと私を包んでいった。


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