24.融解
心が、思考が
身体に置いていかれる
噛み合わない心と身体がもどかしい
「リリィちゃん16番隊に入るかー?」なんて声を掛けてくれる人に、私はちゃんと笑えてた?
時折そっと触れてくれるイゾウさんの手が
向けてくれる眼差しが
迷子になりそうな私を繋ぎ止める。
「つまり、どういう事だ?」
「分かりません…ただ、私の居た国で銃を持てる人はごく一部なんです。こっちで言うと…自警団や海軍の様な仕事に就いてる人しか、合法的に所持出来ません。狩猟目的でも免許が必要だし…」
「後は非合法…って事か。リリィにその可能性は…まずねェだろうな」
「と、思いたいです」
鍛錬が終わる頃、話を聞いたらしく顔を見せたサッチとエースも交え、状況を整理していた。
「え?リリィ海軍なのか?」
「馬鹿、ちげーよエース」
「何かしらそう云う仕事をしてた…って事か」
「かもしれないですね…身体は動いたんですけど、それでも何も思い出せなくて…」
「まぁ、良いんじゃねぇの?何も出来ねーよりマシだろ?モビーで暮らすんだしよ」
握りしめたままの銃が、ずっしりと重い。
「リリィ、それはそのまま持ってな」
「え?」
「使わずに済むに越した事はねェがな、万一って事も有る」
「でも…」
「大丈夫だ、使う様な状況にはさせねェよ。ただ、もしもの時は自分を守る為に使えよ?いいな?」
「はい…」
ここは海賊船だ。
この間みたいな事もあるし、身を守る術は有った方がいい。
それは理解ってる…でも…
「そんな顔するな」
「ん…大丈夫です。ありがとう」
ぽふんと撫でられただけなのに、心がすとんと落ち着いた。
私の気持ちを読んでるみたいに、いつも絶妙なタイミングで安心をくれるイゾウさんに、思わず表情が緩んだ。
「…あのよ、イゾウとリリィって何か有ったか?」
「…へ?」
「いや、なんつーか、こう…」
「手出すなよ?」
「ちょ、イゾウさんっ!?」
「は?マジで?お前が手ぇ早いってんだよ」
「やだちょっとサッチ!声大きいから!!」
「煩ェな。まだ出してねェよ」
「イゾウさんも何言ってるんですかっっ」
ククッと笑うイゾウさんとニヤリとするサッチの間で、真っ赤になってオロオロするしかない私。
直接言われてる訳じゃないのに、凄く恥ずかしい!
「…エース!ご飯いこ!」
「おう!」
「あ、リリィが逃げた」
エースと走りながら、ケタケタ笑うサッチを振り返って二人で思いっきり舌を出してやった。
その後ろで笑うイゾウさんに小さく手を振って、エースを追いかけた。
* * *
「じゃあ私、書庫に行きますね」
「あァ、あんま夢中になるなよ?」
「はーい」
イゾウさんと別れ、隊長室の並ぶ廊下の先の階段を、ゆっくりと下って行く。
人の居ない階段はまだ少し寒くて、開けたままだったコートの前を掻き寄せた。
探したい本があった。
伝記でも伝聞でも、噂話でもいい。
「異世界から来た」という人の話が載っている本を。
私が初めてじゃないかもしれない。
こんな突拍子もない事が、私の身だけに降りかかっているなんて思えなかったから。
イゾウさんから預かった銃をポケットから出し、机の上に置く。
ゴトリ、という音が、やけに大きく響いた。
何も分からないまま不安と一緒に日々を過ごしたく無かった。
帰りたい訳ではないけれど、どうやって来たか分からない以上、ある日突然逆も起こり得るから……
それを防ぐ手段が有るのなら、どうしても知っておきたかった。
起きたらイゾウさんの側に居ない――
それだけは、どうしても阻止したかった
ふふっと思わず声に出して笑っていた。
思っていた以上に、私はイゾウさんに侵食されている。
少しずつ削られて
形が無くなるまで
イゾウさんに溶けてしまいたい
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