Truth | ナノ

  22.選んだその道を




「おはよう、サッチ」

今日もいつもと変わらない朝が始まる。

「おはようリリィ。昨日は悪かったな」
「全然。書庫も教えて貰えたし、退屈しなかったから。それよりコレ、みんな…大丈夫…?」

今朝の食堂は、明らかに二日酔いって感じのぐったりした人が多くて、人数もいつもより少ない気がする。

「なっさけねーよなぁ。赤髪一人にどんだけ飲まれてんだっての」

そう言いながらもサッチは、宴の翌朝には少し塩分多めの野菜スープを必ず作る。
なんだかんだ言いつつ、優しいんだよね。

「ほい、コーヒーお待たせ」
「ありがとう」


いつもと変わらない朝

「リリィーそろそろイゾウ頼むわ」
「あっ…はーい」


少しだけ
でも大きな変化


昨日はあの後、お酒を持ったエースとラクヨウさんがイゾウさんの部屋に来たので、結局夜中まで私も起きていた。
(隠し事の出来ない二人だから追い出されたんだろうって、イゾウさんが言っていた。)

だから、イゾウさんとはあれから何も無かったし、二人にそういう話もしなかった。
みんなの居る前で、変わった様子も見せなかった…と思う。

それでも、今朝はやっぱり特別な気持ち。
だって、イゾウさんと…


曝け出してぶつけた、私の気持ち
確かに感じた、イゾウさんの気持ち


私…イゾウさんの恋人になった…んだよね?

"世界一"の白ひげ海賊団隊長の恋人…

なんだか凄い人を好きになってしまった気がしたけれど、隊長とか海賊とか、そんなのはどうでもいい。

イゾウさんが。
イゾウさんだから――


不意に、ツクン…と小さな痛みが走る。
きっと"隊長"って言葉を思った所為。


イゾウさんの部屋へ向かう、浮かれた空気を一気に冷やされた気がして、きゅっと小さく唇を噛んだ。



「…イゾウさん?おはようございます」

いつもよりドキドキする気持ちを抑えながら、そーっとベッドを覗き込む。

私が部屋に戻った後も声が聞こえていたから、きっと朝まで飲んでたんだろう。
エースもラクヨウさんも、食堂に来るの遅かったし…

「起きれますか?ご飯、どうします?」
「ん…リリィ」
「はい?」

寝起きの声の艶っぽさが、昨日までと変わらず私の耳を擽る。

イゾウさんがまだちゃんと起きてなくて、本当に良かったと思う。
だってこんな緩んだ顔、今更だけど見られたくない。

「こっち来な」
「…へ?」
「なに間抜けな声出してんだ」

ククっと笑うイゾウさんに手を引かれ、ぽすんと倒れ込んだのは、イゾウさんのすぐ隣。
まだ少し夜を纏うイゾウさんの体温の心地良さに、きゅっと心が震える。

「起きてたんですか?」
「なんだ、寝てて欲しかったか?」
「う…いえ、その…」

言い淀む私を見て、ニヤリと意地悪な顔をしたイゾウさんが、上体を起こしながらちゅっとキスを一つ溢した。

「おはよう、リリィ…どうした?」
「…いえ、ちょっと…予想してなかったというか」

思わず押さえた口元から、顔中に熱が走る。
触れるだけのキス一つで、こんな反応…

「イゾウさんて、こういう事する人じゃないと思ってたので…」
「俺もリリィがそういう反応するとは思わなかったな」
「え…私そんな風に見えてました?」
「冗談だよ。そんな顔するな」

クツクツ笑いながらぽふんと撫でられた手に、昨日と同じイゾウさんの優しさを感じて、ふわふわした心は漸く落ち着き始める。


「朝ごはん、持ってきますか?」
「いや、今日は行く。隊の奴らを鍛練しなきゃなんねェからな」

「面倒くせェ」とぼやきながら、軽く伸びをしてイゾウさんは起き上がった。

「じゃあ私、先に食堂行きますね」
「一緒に行かねェのか?」
「だってイゾウさん着替え…あ、見ませんよ?」

口を開きかけたイゾウさんの言葉を先に取って、ふふんと笑う。
いつも言われっぱなしなのは、悔しいから。

「すぐ終わるから、表で待ってな」
「はい」

小さく笑い合って、静かに扉を閉じた。



少し廊下は寒かったけれど

幸せに包まれた私には、その空気は届かない

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