Truth | ナノ

  20.素晴らしき邪魔者




思考が行き詰まると意識はたちまち手元の本へと戻り、すぐに視覚も聴覚も完全に本の世界と潜り込んでいた。
唯一感じた違和感の元はすっかり嗅ぎ慣れた紫煙の香りで、意識は急速に呼び戻される。


「え…あれ?」

驚いて顔を上げると、いつの間にか戻って居たイゾウさんが頬杖をついて穏やかな顔で此方を見ていて、慌てて本を閉じる。

「ごめんなさい、気付かなくて…」
「このまま本を読むリリィを見てるのも悪くなかったんだがな」
「…いつから見てたんですか?」
「吃驚した顔で慌てて何頁か戻してた辺りから」

…かなり前だ。
本を読み出すと周りも時間も忘れてしまうし、引き込まれると表情までつられてしまう。

「だが…そこまで無防備になるのは感心しねェな」

確かに…そうかもしれない。
元の世界の中でも、特に平和な国に居た私の危機意識なんて、きっとこの世界では何の役にも立たないんだ。

「これから書庫に行く時は一声かけて行けよ?まァ…俺がモビーに居れば間違いは起こさせねェがな」
「どうして…」
「ん?」
「どうしてイゾウさんは、私に優しくしてくれるんですか?」

以前も聞いてはぐらかされ、ずっと気になっていた疑問を、再び口にしていた。

「優しくしてる訳じゃねェよ」
「でも…」
「俺がしたい事をしたい様にしてるだけだ。結果リリィが優しいと思うなら、そういう事なんだろうけどな」

私の気持ちを知ってか知らずか、のらりくらりと躱されてる気がしてしまう。
それでも単純な私の心臓は、トクン、と小さく音を立てて目を覚ます。


「イゾウさん…私、どうしたら…」
「どうしたいんだ?」
「分からない…分かりません。だって私はこ、こで…は……」

ぐらり、と再び視界が歪む。

まただ…赤髪さんの"覇気"…さっきより近い分強く感じるその揺らぎに、膝に乗せたままだった本がばさりと落ちる音が聞こえても、身体を動かす事が出来なかった。

「ちっ…態とやってやがるな…。こっち来い、リリィ」

ぐいっと強引に腕を引かれ、両腕でしっかりと抱き締められる。
私の頭と背中を優しく包んでくれたイゾウさんの大きな手から伝わる温もりに、すぐに落ち着きを取り戻す。

それと反比例して騒ぎ出した心音が、耳からと体内から、二つ聞こえている事に気付いた。


私に心臓はひとつ。
ならば、耳が聞いているのは…


「イゾウさんも…?なんで…?」
「赤髪の覇気にやられた――つったら、信じるか?」
「信じません」
「即答するんじゃねェよ」

ククッと笑って、くしゃりと私の頭を撫でたイゾウさんの手がそのまま後頭部に下がり、至近距離で真っ直ぐ絡んだ視線が反らせなくなる。

「本当に面白ェよ、リリィは。もっと知りたいって言ったら…信じるか?」
「――信じて欲しいなら、信じます」

イゾウさんを真似てニヤリと笑ってみせようとした私の唇は、途中でイゾウさんに奪われた。


ちゅッと触れるだけの、子供のするみたいなキスなのに。
じわじわ心に染みて、堪えきれずイゾウさんを見上げた。

「じゃあ、そうしな」


答えと一緒に。
今度はゆっくり、深く――

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