Truth | ナノ

  19.赤い歯車




「四皇?」
「あぁ、オヤジもその一人だ」
「って事は、敵ですか?」
「あー、仲良しって訳ではねェが…赤髪はちょっと変わった奴だからな。何の用かたまにふらっと現れてはマルコにちょっかい出して酒飲んで帰ってく…って感じか?」
「なんだか…気儘で海賊らしい人ですね」

四皇の赤髪さん、か。
そんな凄い人が来てるんだ。


「イゾウさんはここに居て良いんですか?」

机に向かいぱらぱらと書類を捲るイゾウさんの横で本に目を通しながら、何となく尋ねる。

「却って有難い位だな。こっちの方が気楽でいい」
「それならよかった、です」

赤髪さんがどれだけ面倒な人なのか分からないけど、そう言って貰えるのは嬉しかった。


「それにしても…船内に居たとは云え、戦闘員でもねェのにあの赤髪の覇気で眩暈程度で済むとはな」
「……?そういうものなんですか?イゾウさんの覇気で具合悪くならないですよね、私」
「アイツのはオヤジと同じ"覇王色"ってのでな、まるっきり別モンなんだよ。甲板に居た連中はバタバタ倒れてたぜ。情けねェ」
「ほぇ…本に夢中だったからかな…」
「本当に面白ェよな、リリィは」

最近よくイゾウさんに「面白い」って言葉を言われる気がする。
つまらないって言われるよりはいいけれど…いまいち掴み切れない本意に、私の気持ちはいつも行き場を失う。

返答に困って手元の本に目線を落とすと、申し訳程度のノックと共に扉が開き、マルコさんが顔を覗かせた。

「イゾウ、ちょっといいかよい」
「あぁ。すぐ戻るからリリィはここで待ってな」
「はーい」




最近、一人になると考える事が有る。


この世界に来た原因、意味

何かから逃げたのかも知れない。
人か、物か、自分か

思い出した時、私はどうなるの?
それは受け止められる事なの?


そして、イゾウさんの事

イゾウさんが好き。
でも、記憶が戻った時に誰かの事を思い出したら?
その時、イゾウさんの事をどう思うの?


そもそも、この世界の異分子で有る筈の私が、人と深く関わる事は許されるのだろうか。


答えなんて、出る筈は無いけれど。
それでも、考えずにはいられなかった。


…………
……


「まだ当分は居座るだろうねい」
「リリィの事は?気付いてんのか?」
「そんな素振りは見せねぇが、あいつは油断ならねぇ男だよい。オヤジが会わせるなってんだから、会わせる訳にはいかねぇ。もうしばらく頼むよい」
「気にすんな、こっちのが気が楽でいい」

ふっと緩んだイゾウの表情を、マルコは見逃さなかった。

「…リリィからしたら、赤髪よりお前のが問題かもねい」
「どういう意味で言ってんだか」
「自分が一番分かってんだろい」
「さァ?」

雑談の様相を呈し始めたので、イゾウは煙管に火を入れながらマルコに背を向けて歩き出した。

「リリィの闇は、多分思ってるより深いからな…」

去り際にポツリとイゾウが呟いたその言葉は、漏れ聞こえた宴の騒ぎ声に掻き消された。


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