13.おはよう、おやすみ。
眩しい…でも、凄く暖かい。
朝の日差しの柔らかさが好き。
お酒を飲むと普段よりぐっすり眠れるから、気持ちがいい。
ん…?お酒?
私、イゾウさんと飲んでて…それから…
「あ…」
膝を抱えてからの記憶がない…
物凄いスピードで覚醒した意識と動かそうとした身体が、右手の違和感に気付いて固まった。
イゾウさんの…手を握ってる…
な、なっ…何でこんな事に。
しかも私、一度も目覚めず朝まで爆睡しちゃったし、ここはイゾウさんの部屋でつまりはイゾウさんのベッドで、だからつまりそれでえーと…
そこに居るハズの部屋の主の存在はとりあえず視界に入れない様にして、必死に記憶を手繰る。
「朝から何一人で百面相してんだ」
頭上から降って来た主の楽し気な声に、恐る恐る顔を向けた。
「お、おはようゴザイマス」
「おはよう。よく寝れたみてェだな」
「おかげさまで…?」
椅子に掛けたイゾウさんの足元にはお酒の空瓶がズラリと並んで、そこだけまだ夜の雰囲気だ。
まさかイゾウさん、ずっと起きてた?
勝手に寝落ちといてなんだけど、私の部屋は隣だから運ぶなり、そのまま放置するなり…幾らでも寝る方法はあると思うのに。
「あの、手を…」
「離すか?」
「え?」
「俺はそろそろ眠いんでな、リリィも二度寝しな?」
「はい??え…?」
イマイチ状況を把握していない私の手を握ったまま潜り込んで来たイゾウさんの、その有無を言わさぬ勢いに反射的に身体をずらすと、ぎゅっと背中から捕まえられた。
…悲鳴を上げなかった自分を褒めたい。
「い、イゾウさんっ…!?」
「寝るぞ…」
あ、この声は…ホントに眠い時の声だ。
「あの、私、食堂行かないと…」
「今日はマルコもサッチも居ねェよ」
そうか、みんな夕べは帰ってないんだっけ。って、そういう事じゃ無くて…!
「俺が寝たら、出てっても構わねェ…」
そう言ってイゾウさんは、躊躇わず私の首元に顔を埋めた。
なんかもう、とんでもない状況になってるけど、私の所為で眠れなかったイゾウさんを拒否するなんて出来る筈も無くて。
諦めて身体の力を抜くと、小さく笑い声が漏れ聞こえた。
「おやすみ、リリィ」
「…おやすみなさい」
驚くべき早さでイゾウさんの寝息が聞こえ始めたけれど、この状況ですんなりと二度寝が出来る程、私の神経は図太くは無い。
イゾウさんのベッドを占拠して朝まで熟睡した私だけど…。今は素面だし、抱き枕にされてるし。うん、状況が全然違う。
必死に自分を納得させて、今日はこの後どうしようかと何気無く瞑った瞼が、少し重たい気がした。そう言えば頬にも少しだけ引き攣る様な感覚が有る。
私、泣いたっけ…?
泣き上戸では無いし、眠るまでの事は全部覚えてる。
まさか、寝てる時に泣いた…のかな?
何れにしろ、見られたのは間違いない。
手を握っていたのもずっと起きていたのも、もしかして…
じわっと心と涙腺が熱くなって、まだ私の手を握っているイゾウさんの手にそっと触れる。
イゾウさんは、優しい
少なくとも、私には。
それだけで、充分だ。
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