その他短篇 | ナノ
 酷く甘い男(Izou / Thatch

*現パロ。「フランスパン戦争」湾さんの妄想を元に「Ginger Sirup」のgingerさんが書かれたお話の、イゾウさんサイドです。

イゾウさんの同僚だったサッチさんが脱サラして数年前に出したお店「くいもの処 幸」

サッチさんの人柄と料理の腕だけは買っていたイゾウさんが足りない開店資金を出した為、一応形だけの「オーナー」として関わるそのお店は、イゾウさんのお気に入りの場所のひとつだった。
サッチさんには絶対に言うなって言われてるけどね。

そのお店で、半年位前から面白い事が起きつつあるらしい。

なんと、サッチさん目当てで通い詰めている女の子が居るらしいのだ。

新しいおもちゃを見つけた、って顔で楽しそうに話すイゾウさんの様子を見る限り、きっとサッチさんも悪い気はしていないんだと思う。

私もその女の子を見たくてたまにお店に行くけれど、白ひげグループの海外担当部署に居る為、客先の時間に合わせて動かなければならない事が多くて、行くのはいつも閉店間際でなかなかタイミングが合わず。
未だ会えず仕舞いで本当に残念。



今日も遅くまで仕事になりそうだなぁ、と明日までに処理しなければならない書類の確認をしていたら、社用携帯が鳴った。

着信画面にはイゾウさんの名前。

今日は1時間位前に退社してる筈なのに、わざわざ社用携帯に掛けてくるなんて、一体どうしたんだろう?

『俺だ。いつもの店に居るからすぐに来な?』
「…え?まだ仕事中ですけど…」
『仕事より俺に酌する方が大事だろ?』
「すぐは無理ですって。明日までにレッドフォース社に送る書類が…」
『あんまふざけたこと言うと…』
「えぇっ、ふざけてませんよ!?」
『…あぁ、カナはお仕置きされたいのか』
「え…ぁ…ぅ、そういう訳じゃ…」
『ハハっ。じゃぁ、待ってるぜ』

こっちの言い分は全く聞き入れられないまま、一方的に通話が切られた。
だいたい社用携帯に掛けてくるなんて狡い。
社内に居る限り、上司であるイゾウさんからの着信を無視する訳にいかないじゃない。

ていうか、今の会話サッチさんのお店でしてるんだよね…?
お客さんに丸聞こえだってのに、遠慮の欠片も無い。

まぁ、すっごくイゾウさんらしいけど。

思わず零れる笑みを押し殺しながらマルコ部長の方を向くと、会話から相手を察したらしい部長は苦笑いを浮かべていた。

「今のイゾウだろ?ったく、あいつは仕方ないねい」
「すいません・・・」
「ま、明日の朝に間に合えばいいよい」

って事は明日は始発で出勤しなきゃ。
ホント、イゾウさんには振り回されっぱなしだ。

でもこの位はまだいい方で。

この間なんて出張先から今すぐ来いって電話して来て、慌てて最終の飛行機に飛び乗る、なんて事もあった。
しっかり航空券の手配が済んでいる辺り、イゾウさんらしいなぁなんて思ってしまうんだから、惚れた弱みとはいえ結局振り回されて嬉しい私も相当なもんだと思う。


レッドフォース社側の担当者ベックマンさんに朝一で送る旨をメールして、席を立ってふと気付いた。

今から行くって事は、あの子に会えるかもしれない。

「マルコ部長」
「ん?」
「サッチさんのお店に来る女の子、会った事あるんですよね?」
「あぁ、あるよい。会えばカナもきっと気に入るよい」


イゾウさんの事だ、きっと私が会いたいって言ってるから呼んでくれたんだろう。

でも絶対サッチさんのお店に迷惑かけてる筈だから、何か差し入れ買っていかなきゃ。
女の子が居るなら甘いものがいいかな。


沢山のケーキを手に、いつもよりドキドキしながら「くいもの処 幸」の扉を開けた。


title by ポケットに拳銃

prev / next

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -