その他短篇 | ナノ
 捕獲クエストが(マルコの中で勝手に)発行されました

※名前変換なし
 ついさっき昼食を食べた。サッチが特別に用意してくれた、少しだけみんなと違うメニュー。その理由は置いておいて、つまり今はまだ昼間だという事。
 視線の隅に辛うじて入る窓から差し込む光は明るい。うん、間違いなく真昼間だ。
 まずそれを確認した私は、次に自分の背後を確認する。
 あぁ、やっぱり居る。しかもものすごーく、近くに……

「……マルコさん、どうしました?」
「ヒマなんだよい」
「冗談言わないでください……今の今まで私の目の前で、書類の山に文句言ってたじゃないですか」

 当然私の目の前にも書類の束。
 少なくとも何の脈絡もなく私に抱きついて来る様な余裕はない筈だし、そもそも抱きつかれる理由もなければ関係でもない。
 私の冷めた反応が面白くなかったのか、(でも私がキャーなんて言う筈はない事くらい、マルコさんだって分かっている筈だ)後頭部にぐりぐりと頭を押し付けてくる。もしかして後ろに居るのは別の人なのでは?と思ってしまう程に、マルコさんらしくない行動。

「宴の席でもあるまいし……昼間っから何してるんです」
「夜に仕切り直すか?」
「は??マルコさん、お疲れでしたら少し休んで来てもいいんですよ?」
「お前はいつからそんなにつれない奴になっちまったんだ」
「変なモノ、食べました……?」

 がっしりと抱きつかれて動けない私は、それでも手だけは動かして物資のリストにチェックを入れ続ける。
 そんな私の態度を気にするでなく、絡みつく腕の力を更に強めたマルコさんは、あろう事かわたしの耳元にまで顔を寄せて来た。やだちょっと近過ぎる。そして意外と体温が高い。

「可愛いなって思っちまったんだから、仕方ないだろい」
「……はい??????」

 壮大な寝言が……いや、考えようによってはエラく物騒な発言が聞こえた気が……

「ちょっと、訳が、ワカリマセン……」
「可愛いって言ってんだよい。もっかい言ってやろうか?」
「いえ、結構です……あと仕事が進まないので放して貰ってもいいですか?」
「却下」
「即答とか……本当に、どうしたんですかマルコさん」

 どうしよう。マルコさんは明らか変な事を言っているのに、何故か勝てる気がしない。
 耳元で淡々と話し続けられ、いよいよ手を動かす事すらままならなくなってしまった私は、溜め息と共にペンを手放した。

「おれが可愛いって言うのはそんなにおかしいかよい」
「いやその、おかしいと言うか調子は狂いますけど……それより今はまだ仕事中ですよ?」
「なら終わらせりゃいいんだな」
「は?」
「今じゃなきゃいいって事だろい?」
「いや、時間の問題じゃなくって……」

 隊務時間中にこんな事をするマルコさんも、あんな事を言うマルコさんも、全部初めてでどうしたらいいのか分からない。それに昼間とは言え二人きりの室内でがっしりと捕獲された私は……あれ?もしかしてこれ、ヤバい状況??
 意味の分からない迷惑な行動だと思っていた筈なのに、現状を整理した途端に熱を持って色が拡がった。
 だいたいいつもはよいよいと本心をどこに置いているのか見せないマルコさんが、急に強引な行動を取るとか、こんなギャップ萌えみたいな行動……

「なぁ」
「はい?」
「おまえ、耳真っ赤だよい」
「!?」

 思わず全力で振り返って、しまったと思うも後の祭り。
 ゼロ距離に近い位置でニンマリと笑うマルコさんは、それはそれは見事な悪い顔。

「ああ、良い表情(かお)してるじゃねえか」
「!!!」

 口を動かしたら触れそうで言い返す事が出来ず、せめてもの抵抗でゆっくりと顔の向きを元に戻す。
 さっきまで冷静にペンを握っていた自分の指先の赤さが危険信号。マルコさんの勢いに流されるな、落ち着け私。

「マルコさん、そろそろ放して貰わないと仕事が――」
「そうそう、それと誕生日おめでとう」
「それも後にして……え?あ?」
「後でいいのか?今なら何でも言う事聞いてやるよい」
「と、とりあえず……少し、ハナレマセンカ……?」
「なんだ、そんなつまらねえ事でいいのかよい」
「いいです!つまんなくないです重要な懸案です!あ、いやでも、それとこれとは別です!別!!!」
「じゃあこのままだねい」
「そしたら……もう一回言ってください」
「どっちを?」
「どっちって……どれと……あ、いいです分かりました!後の方です!」
「可愛いよい」
「!!!!!」

 それじゃない!!
 分かってて言うマルコさんに、わたしは完全に呑まれてしまっている。多分これはもう、脱出不可能だ。

「そっちじゃないですけど……もういいです……放してくれたら、夕方までに仕事終わらせる……努力は、シマス……」

 そう言うとやっと解放してくれたけれど、なんだかどっと疲れてしまった。鼻歌交じりに仕事を再開したマルコさんには申し訳ないが、私の努力が実を結ぶ事はないだろう。

「おい」
「はい?」
「誕生日おめでとう」
「……ありがとう、ございます」

 やっぱり頑張ります。

gingerさんのお誕生日に。

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