その他短篇 | ナノ
 ゆらぎ(Izou

「じゃ、イゾウまたね」

何も言わない部屋の主に代わって、リンと返事をした風鈴の音を遮る様に扉を閉じる


「また」と言う私にイゾウが返事をした事は一度も無い。
私たちは所謂『都合のいい関係』ってヤツなんだから当然だ。


イゾウが欲しい時 私が欲しい時

どちらかが望めば関係は成立する。
二人が共に望んだ事なんて、多分一度も無い。


いつから私は、特別な存在になりたいと思ってしまったんだろう。

通い慣れた廊下を歩く私の身体からは、イゾウと同じ香り。
自分と同じ石鹸を、イゾウは普段から私にも使わせる。

部下と接する時 島を降りて他の女を抱く時

普段の生活に私の香りを残さない為なんだろう。
七つも年下のクセにこういう周到な所はホントにムカつくけど、それを受け入れてるのは私だ。
惚れた弱味とはいえ、自分でもどうかしてると思う。


明日にはまた島に着く
でもそれまでは、海の上に居る間だけは
私がこの位置に居られる




三日間の寄港の中日。
特にする事も無く船内をぶらぶらしてたら、すれ違ったイゾウに呼び止められた。
隊も違うし普段は特に会話なんてしないのに、珍しい。

「カナ」
「ん?」
「ちょっと来な」

強引に腕を引かれ、甲板に積まれた木箱で作られた死角まで連れて行かれる

「・・・何で俺のじゃねェ匂いしてんだ」
「あー昨日島で宿に泊まったし」

酒場で会った男と何となくそんな感じになったから。
別に隠す必要も無いしそう答えたら、整えられた眉がピクリと僅かに歪んだ。
不愉快そうな顔してるのに男前に見えるとか、ホント何なのよこいつ。

「カナ、てめぇは俺だけ見てりゃいいんだよ」
「は?なにそれどういう――」

言い終わる前に、貪る様な口付けに塞がれた。
真っ昼間に、しかも人目に付くかもしれない場所でイゾウがこんな事するなんて。

漸く開放されたと思ったらそのまま首元に顔が埋められ、ちりっと小さく痛みが走る。
イゾウに痕を付けられるなんて初めてだ。

いつもと違う様子のイゾウに、仕舞おうとしていた心がトクンと熱を帯びる


「良く考えな?このまま一生都合のいい女で居たくなけりゃな」


混乱して返事が出来ない私の代わりに、リンと遠くで風鈴の音が答えた気がした


「―・・・イゾウ」
「あ?」
「また、ね?」

「あァ、また後でな」


振り返る事無く、でもハッキリとそう答えて。
何事も無かったかの様にその場を後にするイゾウの後姿を見送る私の耳に、今度はもう風鈴の音は聴こえてこなかった

お題:年下イゾウに遊ばれる for 16同盟夏☆IZO PROJECT

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