その他短篇 | ナノ
 愛を喰らわば君まで

戦闘はそこそこ出来る方だ。
その辺の雑魚海賊なんかに負けない程度には。

海賊暮らしが長いから真っ白美肌って訳にはいかないけど、そこそこ美人の部類に入る方だと思う。
自分で言ったら台無しって、我らが4番隊隊長様にいつも言われてるけどね。

そんな私の弱点が、料理だった。
何をどうやったらあんなに美味しいモノが作れるのか…第一モビーには凄腕コックが沢山居るから、わざわざ作らなくても美味しいモノはいつでも食べられる。
だから、今まで覚える必要が無かったのだ。



「サッチ隊長…」
「カナ…もう俺っちにも無理よコレ…」

(自称)凄腕コックのサッチ隊長に泣き付いて手伝って貰う事数時間…

ケーキを作っている…筈なんだけど…

「流石の俺も自信無くすレベルだわ…」

目の前には食材だった筈の物。
エースが見向きもしないって、流石にヘコむ…

「ありがとうサッチ隊長。やっぱ慣れない事するもんじゃ無いね」
「わりーな、正直これ程迄とは…」
「自分でもびっくりした」

山になった失敗作は、勿体無いから後で海王類さんに美味しく頂いて貰おう…



「はあぁぁ…」

海王類さんを餌付けしながら、船縁にだらしなく身体を預けて何度目かの溜息をついた。
醸し出す雰囲気がよっぽど哀れなのか、誰も声をかけて来ない。

「プレゼント、どうしよ…」

致命的とも言える料理をしようとしたのは、明日が大好きなイゾウ隊長の誕生日だからだった。
日頃は余り女に見られてないから、ケーキでも作って女をアピールしてやろうと目論んだのだけど。

グランドラインど真ん中、今から買い物に行ける筈も無く。

「ぐぬぬぬぬ…困った…」
「なに海王類にガンくれてんだ?」
「っわぁ!イゾウ隊長?!してませんしてません!そんな野蛮なコト滅相もない!」
「海賊が野蛮もクソもあるか」
「…ですよねー?…はぁ。分かってるっつーの」
「あ"?」
「何でもありませーん。さ、イゾウ隊長は明日に備えてゆーっくりお休み下さい」

せっかくの邂逅、いつもなら一分でも長く楽しみたい。でも今日ばかりは早急にお帰り頂いた。



朝まで必死になって考えに考えた私は、半ば捨て身の作戦を決行する事にしたのだった。



「で、これは何だ?」
「何って、プレゼントです」

満面の笑みでイゾウ隊長に差し出したのは、真っ白なエプロン。本当はフリル付きが良かったけど、まだ海王類の餌にはなりたくない。

「俺にこれを着けろってのか?」
「あれもしかして、カッポウ着の方がお好みでしたか?」
「そういう問題じゃねェ」
「私の女子力では、ホイップクリームが精一杯だったんです。だから、後はイゾウ隊長に…ね?」

身長差を利用して、この為に睫毛増量済みのキラキラお目々でイゾウ隊長に訴える。

「…面白ェ。作ってやるよ、カナ。但し、後で泣きを見るのはお前さんだぜ?」



1時間半後――

「さ…流石はイゾウ隊長…お見それしました」

4番隊伝家の宝刀、サッチ隊長仕込みの全力土下座で、完璧なスポンジを焼き上げたエプロン姿のイゾウ隊長にひれ伏す私がそこに居た。

「…カナ、クリームと指出しな」
「へ?こうですか?」

ぐいっと私の手首を掴んだイゾウ隊長は、ボウルからホイップクリームを私の指でひと掬いするとそのままパクッと咥えた。

「なっ!…ぁっ…くすぐった…」

ゆっくりと、丁寧に指に付いたクリームを舐め取ると、最後に自分の唇を舐めたイゾウ隊長は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「っ…は…」
「甘ェ…甘いモンは好みじゃねェんだ」

そのまま手を引いて私を立ち上がらせたイゾウ隊長は、くいっと私の顎を持ち上げ、ペロリと私の唇を舐めた。

「あ…ま…」
「俺はこっちの方が好みなんでな。口直しさせて貰おうか」
「…は?」
「誕生日なんだし、好きなモン食っても構わねェよな?」

好きなモン…好きなって…今言った!?

「って、え、え…えぇっ!?ちょ、もうすぐ宴が…」
「1時間もありゃ取り敢えず充分だ。ついでに明日から16番隊に来な。料理出来ねェんだし、問題ねェだろ?」
「こ、後半は、きっと問題無し…デス」

ズルズルと引き摺られて行く私に笑顔で両手を合わせたサッチ隊長を見て、どうやら私自身がプレゼントにされたらしい、と気付いた。


「あ、イゾウ隊長…誕生日おめでとうございます。あと…好きです」
「遅ェんだよ、馬鹿が」

title by ポケットに拳銃

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