▼ 眠りによせて(Marco
「あーもう!マルコたいちょーー!!」
夕暮れのモビーに響く叫び声。
マルコに対してこんな口調で叫ぶ人物は一人しか居ない。
「おう、どうしたカナ?」
「あーサッチ隊長助けて下さいよ!!」
そう言ってサッチに駆け寄るカナは、海賊の割に白い肌に不釣合いな濃い隈をのせ涙目で訴える。
「何ソレ、ひでー顔…」
「マルコ隊長がもう五日も寝てなくて…」
「それで何でお前が隈作ってんの?」
「マルコ隊長が寝ないなら私も寝ないって言ったのに聞いてくれなくて、私も二日寝てないんです…」
「何やってんのよ…お前ら」
二人が下らない事で意地を張り合うのは今に始まった事ではないが、流石に度が過ぎている。
「んなもん、ちょっとベッドに誘って疲れさせりゃ一発だろ?」
「私が持ちません…」
「そうか…マルコだもんな…」
「そうなんです…マルコ隊長なんです…」
ふらふらと船内へ戻っていくカナの背中を見送ったサッチはやれやれといった表情を浮かべていたが、今回はどっちが先に折れるか賭けでもするかと食堂へと入っていった。
「カナ舟漕いでるよい」
「…寝てませんよ!?」
「マルコ隊長手が止まってますよ?」
「…考えてただけだよい」
ベッドに腰掛けて書類整理を手伝うカナだったが既に睡魔は限界で、さっきから同じページを何度も読んでいる事にも気付かない。
「カナよい」
「ふぁ?」
「カナが素直に寝るって言ったらおれも寝るよい」
「マルコ隊長が一緒に寝たいって言うなら寝ます」
「意地っ張り娘が…」
「隊長こそ素直じゃないんだから」
「うるせーよい」
「マルコたいちょー…」
口を開くのも億劫になって来たカナは、書類を脇に寄せぽふんとベッドに横になった。
「おやすみのちゅーしてくれたら、寝ます…」
「素直にそう言えばいいんだよい…」
手にした羽ペンを机に置きベッドサイドまで来たマルコは、カナの前髪を掻き分けるとトロンとした目蓋にそっと口付けを落とし、そのままちゅっと唇を啄ばんだ。
「おやすみなさ…んっ…」
離れたと思った唇が再び合わせられ、開いていたカナの咥内に素早く舌が侵入してくる。頭を振って抵抗しようとするも、しっかり押えられ動く事が出来ない。容赦なくカナの舌は追い立てられ、口の端から吐息が洩れる。
書類と向き合っていた先程までの空気が一瞬で夜のそれへと変わった事で、カナの背中がゾクリと粟立った。
「んぁ…ちょ、たいちょ…それ違うちゅー、です…」
「誘ったカナが悪いよい」
「そこまで誘ってませんてば…あ、ちょっとたいちょ…」
「知ってるか、カナ」
ぎしっとベッドに上がり覆い被さったマルコはカナの両腕をシーツに縫い付ける。
「男ってのは、疲れててもムラムラするんだよい」
「…そう、でした…」
再び近づいてきた唇がカナの首筋に触れたその時、ずしっとカナの体が重くなった。
「マルコたいちょ…?」
耳元から微かに聞こえるのは、規則正しい寝息。
「うそ、寝ちゃった…」
確かにカナが寝るなら寝ると言っていたけれど、まさかあの状況から一瞬で寝てしまうとは。マルコの体をそっと横にずらして毛布を掛け、枕元の書類を机に戻すとカナはその隣に自らも潜り込んだ。
「おやすみなさい、マルコ隊長」
そのまま二人は深い眠りへと落ちていった。
翌朝、体力が全快したマルコにカナは夕べの分もと散々可愛がられる羽目になる。
「男ってのは、朝からだってムラムラするんだよい」
「…むしろムラムラしない時を教えてください…」
fin.
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