その他短篇 | ナノ
 モンキーマジック。

「……………は??」


たっぷり溜めたのは、誰かに媚びた訳でも演出でも無く。
本当に、言葉が出なかったんだ。

この部屋には私一人しか居ない。
居なかった…寝るまでは確かに一人だった。


「誰…?って、言葉分かるはずないか…」


――目覚めたら、部屋にお猿が居た。

小洒落たヤツとか色々居るけど、所謂『普通の猿(の子ども)』が。


「あー、私…まだ寝ぼけてる…?」

抓れば痛いし、波の音も聞こえる…ここはモビーの私の部屋で多分間違い無いのだろう。

…お猿が居る事を除けば。


『ウキ?』
「………お、おいで…?」

小首を傾げてこちらを見るその姿に、堪え切れずに手を伸ばす。

私はお猿が大好きなのだ。


しずしずと遠慮がちに私の肩に登って来たそのお猿に頬ずりすると、とてもいい匂いがした。


***


朝食の時間で賑わう食堂。
カツカツと若干乱暴に足音を立てて突き進むカナに、皆が好奇の目を向けている。
そんな事はお構い無しに、カナは一直線に隊長たちが集まるテーブルへ向かう。

「…イゾウ隊長、このお猿は何ですか?」
「ぶふっ…!マジで用意したのかよ」

プークスクスと露骨に笑うサッチはとりあえず無視してイゾウの前に立つカナの腕には、件のお猿がちょこんと行儀よく座って居る。

「猿を飼うのが夢だった、って言ったのはカナ、お前さんじゃねェか」
「確かに言いましたけど…これ、育ったら大きく…」

そう言ってチラリと目線を下げれば、「キ?」と心なしか寂しそうに首を傾げるお猿と目が合う。カナは「うっ…」と小さく呟き、よしよしとお猿をそっと撫でた。

「この子は可愛いけど…違うんですって。こう…普段は肩に乗ってて、ピンチを助けてくれたりとか…」
「一緒に戦いてェなら、ヒューマンドリルが良かったか?」
「ちょ、殺す気!?」
「ククッ、情けねェな。だいたい人が部屋に入っても気づかねェで呑気に寝てるとか、たるみ過ぎなんだよ」
「なっ…!!乙女の寝室に勝手に入ったんですか!?」
「お前さんは、猿が自分で入って来たと思ってたのか?」

ぎゃいぎゃいと応酬を続ける二人を、眠たいオーラ全開で食堂に入って来たハルタがウザそうな顔で一瞥し、サッチの向かいに腰を下ろした。

「…朝から何なの?普段以上に噛み合わないあの会話。しかも何あの猿」
「こないだの宴でカナが猿が好きだ欲しいつってたろ?イゾウのヤツ、マジで用意しやがってよ。ま、本人達は楽しんでっからイイんじゃねぇの?」

一通りの応酬に満足したのか、イゾウが煙管に火を入れ一服点けたので、カナも漸くその隣に腰を下ろす。

「…でも急にどうして?」
「どうって、誕生日じゃねェのか?」
「え…あ、そうだった。イゾウ隊長、覚えててくれたんですね」

さっきまでの勢いは何処へやら、ぱあっと明るい表情になったカナを見てサッチとハルタは笑いを堪えて居るが、当の本人達は全く気付かない。

「当たり前だろ。しかしよく俺だって分かったじゃねェか」
「だってこの子から、イゾウ隊長の部屋の匂いがしますよ?」
「へェ…」

目を細めてカナを見るイゾウを、毛を軽く逆立たせたお猿が「キィ!」と小さく威嚇した。

「…相変わらず鈍感だよなぁ。二人とも」
「てかさぁ…いくら好きって言ったからって、女性に猿をプレゼントするイゾウのセンス、あり得ないよね」
「カナは満更でもねぇ顔してっけどな」
「益々あり得ない」



暫くの後、「猿使いのカナ」という二つ名が付いたり、手配書の写真がお猿になったりするのは……また別のお話。

おしまい?



「イゾウーおいで。一緒に寝よ」
「は?」
「あ、お猿の名前」
「…色々誤解されるから、ヤメナサイ」

Happy Birthday!!


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