その他短篇 | ナノ
 ところによりあいが降るでしょう

現パロ/クリスマス/わんさんの妄想より

街がキラキラしている。
それはイルミネーションだったり、道行く人の笑顔だったり。

今日はクリスマスイヴ。

イゾウさんとディナーの約束をした。
こういうイベントごとに普段は余り乗らないのだけれど、いざ自分にその順番が回って来ると、他聞に漏れず浮かれている私が居た。
仕事を早々に片付け、何か言いたげな周囲には気付かない振りをして、定時きっかりに退勤ボタンを押してIDカードをかざした。
おかげで待ち合わせ場所にはかなり早く着いてしまった。

街を彩るイルミネーションが冷えた空気に温もりと色を与え、寒さを感じない自分に笑ううち、あっという間に約束の時間になった。

でもイゾウさんはまだ来ない。

「お疲れさまです。待ってますね」と一通だけ送ったメッセージには、いつまで経っても既読がつかない。

忙しかったのかな…?
今日は昼から客先に出ていたイゾウさんの様子は分からないけれど、表立ったトラブルは無かった筈だ。

「あ……」

ふわり、と雪が舞い始めた。
寒さの増す中、周りの人たちはやって来た恋人に笑顔で駆け寄り、寄り添って幸せそうに歩いて行く。

携帯の充電切れかな…
お客さんに捕まってしまったのかもしれない。

コンクリートから伝わる冷気で、足の指がじんじんと痛い。
頬もピリピリと痛くて、巻いたストールを引き上げる。
もっと痛い場所には、気付かない振りをした。


声を掛けて来る人を、何人断っただろうか。

帰ろうかと思い、鞄の中の合鍵に何度も触れた。温かいコーヒーを買いに行きたいな、とも思った。
…やっぱり帰ろう。イゾウさんが来た時に私が居なければ連絡をくれるだろう。
そう思う度、でももしここを離れてすぐにイゾウさんが来たら、入れ違いになってしまったらと思うと、動けなかった。


何時間経ったのか、身体は髪の毛一本まで冷え切って、携帯を触る手は寒さで震える。
感覚も麻痺して、上手く操作も出来ない。

気付けば人の流れが駅へと向かっていた。
そろそろ終電の時間だ。

既読はまだつかない。

連絡もせずすっぽかす人じゃない。
やはり急な仕事なんだろう。
でももし、何か有ったとしたら…
電話してみようか、迷惑だろうか。
頭の中でそれだけを延々と繰り返す。

寒さの所為か他に理由があるのか、滲んだ視界で履歴の一番上にある番号を押す。
指が震えてるのは、きっと寒いから…
呼び出し音は…鳴らなかった。

―おかけになった番号は電源が入っていないか…

やっぱり何か有ったんだ…
連絡もつかなくて、携帯も繋がらなくて、こんなの悪い事が有ったに決まってる。

どうしよう、どうしよう…
イゾウさんが…イゾウさんに…

不安と哀しみとで涙が一粒流れた。
冷えた頬を伝いながら凍るんじゃないかと思った。そうしたら足元に積もる雪と混ざって、分からなくなるのに――そう思って唇を噛み締しめ一歩踏み出した時。
思いっきり腕を引かれ、後ろから抱きしめられた。

「カナ…」

振り向くとそこに居たイゾウさんは小さく肩を上下させていて、らしくないくらいに息が上がっていると分かった。
いつもはきちんと整えられている髪も少し乱れている。

走って来てくれたんだ……
私が待っていると信じて。

「よかった…」

貴方が無事で、貴方が来てくれて。
よかった、待っていてよかった。

「悪ィ…」
「謝らなくて良いですよ。こうして来てくれたんだから、それだけで良いです」

本心だった。心からの。

「ふふ…イゾウさん、あったかい」

温かくて嬉しくて、冷え切った両手でイゾウさんの頬に触れた。
驚いた顔で私の手を包んだイゾウさんに、背伸びして額を合わせる。
コツン、と音がして目が合うと、自然と重なった言葉は――


「「あいしてる」」


触れた唇は、いつも以上に温かくて涙の味がした。

fin.

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