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Gift

*ヒロイン視点。

モビーが久し振りに寄航したその日。
買出しの指示や確認をするマルコ隊長を朝から手伝って、やっと手が空いたのは昼過ぎだった。
幸い今日は1番隊は船番や買出しに当たらなかったけれど、島に降りた所で特にする事も無い。それに船に残れば船番を引いた16番隊が居る。
イゾウさんが居るなら、別に態々船を降りる必要も無いのだ。

やはり船番を引いたサッチが淹れてくれたアイスコーヒーを片手に、甲板に出来た日陰でぼんやりしていると、ほんの僅かだが白檀の香りが風に混ざったのに気付いた。視線を向けなくても判る、イゾウさんだ。

「暇そうだなァ、ルリ」
「籤運の強い我が1番隊隊長のお陰で、16番隊と船番しようと思うくらい暇です」

とは云え船番だって、暇に越したことは無いのだけれど。

フッと小さく鼻で笑いながらイゾウさんはわたしの横に腰を下ろす。
触れる程に近い訳じゃないけれど、決して離れ過ぎないいつもの距離。
他愛の無い話をしながら、のんびりと過ぎる時間。イゾウさんと居るのは本当に心地いい。

「そうだ、イゾウさん。今日の夕食の時間予約です」
「予約しなくたって、大体いつも一緒じゃねェか」
「…そうなんですけど…今日は絶対に一緒して下さいね?」

この間買った綺麗な塗りの箸を、せっかくだからそれに見合った料理で使いたい。
ずっと考えてた事を実行に移すことにした。
さっき6点鐘が鳴ってたから、今から支度すれば十分間に合う筈だ。
食堂に居るサッチから厨房の使用許可を貰うと、自室に置いてあるワノ国の調味料と土鍋を手に食堂に戻る。

場所を借りるお礼にまずは夕食の下ごしらえを手伝う。大きな手で器用にするすると皮を剥いているサッチが手にする包丁はわたしが誂えた物で、大事に使ってくれている様子に嬉しくなる。

ずっと昔、海賊になる前。
鍛冶技術を生きていく糧としていたわたしは今も簡単な日常の手入れ位なら請け負う。モビーの規模を一人で担うのは無理だから、武器はよっぽどじゃない限り扱わない事にしているけれど。

手伝いを終え自分の分の調理も一通り済ませ、ご飯を炊く為に土鍋を火にかけた所でやっと一息ついた。耳だけは鍋から離さず、借りてたキッチンの片付けをする。
チリチリ、と小さく聞こえだしたのを確認して火を止める。このまま蒸らして後はだし巻き卵を作れば完成だ。

「イゾウさん呼びに行くけど、絶対に土鍋の蓋開けないでね!振りじゃ無いからね!?」

サッチは調理関係では絶対に変な事をしないって判ってるけど、一応念を押して食堂を出た。


コンコンコン、と3回。いつものノックの音が普段より静かな船内に響く。
部屋に入ると難しい顔で書類と向き合っていたイゾウさんは、筆を置いてこっちを見てふっと表情を緩めた。

「イゾウさん、予約のお時間ですよ」
「直々にお迎えとは随分と待遇がいいじゃねェか」
「シェフ自らのお迎えですよ?」
「へェ…って事は」
「です。わたしが作っちゃいました」

そう言うとイゾウさんは片方の眉を器用に上げてニヤリと薄く妖艶な笑みを浮かべた。
「それは楽しみだなァ」なんてクツクツ笑って。
頑張ったけどあんまり期待されると怖い。

サイドテーブルに置いてあるイゾウさん愛用の白い湯飲みと塗り箸を持参したお盆に載せて食堂へと戻る。


仕上げを始めると、カウンターに座っているイゾウさんの視線を背中越しに感じた。
今までにも味噌汁や卵焼きくらいは請われて作ったことがあるけど、作ってる所を見られるのは初めてで緊張する。
うー、やっぱ完成してから呼びに行けばよかったかも。でも出来立てを食べて欲しかったんだ。

サッチに味見して貰う分も合わせて三つ、トレイを運ぶ。
緊張の一瞬だ。

「あァ、美味いな…」

一つ一つを口に運ぶ度にイゾウさんは褒めてくれる。ちょっと褒め過ぎじゃないかと思う位。
でもお箸の進みを見てると、お世辞ではないのかなと安心する。

うん、やっぱりあの綺麗な塗り箸はワノ国の食事に良く映える。
作って良かった。

わたしも自分の朱塗りの箸で食事をする。
こうして同じ場で使うのは初めてじゃないけど、サッチに気づかれないかドキドキしながら。

「マジうめーな、やるじゃんルリ」
「当たり前だろ?」
「・・・っ」
「何でイゾウが…」

俺にも言えよって感じのサッチの拗ねた表情が可笑しい。

「サッチのご飯いつも美味しいよ?」

そう言いながらお茶を淹れるためにキッチンへと立つ。
お箸と同じ時に買った白い湯飲みが二客。いつも使ってるけど、改めて並ぶとちょっと恥かしい。

テーブルに戻ると、ニヤニヤするサッチと何故か少し不機嫌な表情のイゾウさん。
今の短い時間で何があったんですか。

「ルリ、この後暇か?お礼にとっておきの一本出してやる」
「暇です、すっごく暇!急いで片付けて来ます!」
「イゾウさんイゾウさん、いつも飯作ってる俺には?」
「お前には飲ませねェ」
「うわー予想通りの答えをアリガトウ」

何か言いたげなサッチの表情に、煙管を吹かすイゾウさんと目を合わせて苦笑する。

「邪魔じゃないよー?」
「…また顔に出てた?」
「あァ、思いっきりな」

後片付けを引き受けてくれたサッチに甲板に居るからと伝え。
イゾウさんと二人、食堂を後にした。


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*拍手お礼文が、Giftの裏話になっています。


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