Home | ナノ

Let me care

イゾウが体調を崩した―――
本人は頑なに否定し続けているが、近しい家族の目は誤魔化せない。
ルリは当然の事ながら、船医や隊長たちも初めてのこの事態。認めたくない気持ちは分からなくは無いが、見て見ぬ振りも出来ない。
しかしいよいよ熱が出た様に見えた頃、業を煮やしたルリが意を決し、半ば引きずる様にイゾウを部屋へ連れて行き、漸く周囲は安堵の息を吐いた。




イゾウの着替えを待って改めてルリが部屋に入ると、未だ認めたくないのかベッドに腰掛けてぐだぐだとするイゾウが居た。
待っている間に用意しておいた冷水や白湯を机に並べ、換気をして…と、甲斐甲斐しく動くルリの姿を眺めるその目線は、熱の所為か艶を帯びて見える。

「…それにしても、ルリがこんなに強気に出るとは思わなかったぞ」
「それは…弱ってるイゾウさんを余り皆に見せたく無くて…あ、人目が無いからって、無理はダメですよ?」

穏やかな口調で、でもはっきり言うと遂に大人しく横になったイゾウに安心するも、これは見た目以上に具合が悪いのかもしれないとルリは心配になる。
イゾウの方はと云えば、しっかりとルリに見抜かれていた事に複雑な表情を隠し切れないで居た。

「くそ、情けねェ…」
「そうですか?わたしは少しホッとしてます」

「だって人間らしくて良いじゃないですか」と言うと、「普段は俺を何だと思ってるんだ」と不満を漏らすイゾウの口調は矢張り少し力が無い。

「これがマルコ隊長なら鬼の何とかですよね」
「ルリが楽しそうに見えるのは俺の気の所為か…?」

冷水に浸して固く絞ったタオルを額に乗せてやると気持ち良さそうに目を閉じたイゾウに、ルリはくすりと控え目に笑う。

「気の所為ですよ?でもいつもお世話になりっ放しだから、こうやってお返しが出来るのは悪い気はしないですけど…」

イゾウの具合の悪さに便乗している様で不謹慎だとは思いつつも、少し弱っているイゾウは何処かいつもと違っていて、ルリは実のところそわそわと落ち着かない。

「ルリ」
「はい?…わわっ…」
「冷てェ…」

呼ばれて覗き込むと、イゾウは冷えたルリの手を掴み自らの頬にあてた。その行動に指先からつま先までがじわりと熱くなる。
しかしそれ以上に熱いイゾウの身体に驚いたルリは、自由な手でイゾウの首筋に触れた。
結果両手でイゾウの顔を包むような状態になってしまったが、そんな事に動揺している場合ではない。

「やっぱり…凄く熱い…ちゃんとお薬飲んで寝て下さい。イゾウさんが良いなら、起きるまでここで看てますから」
「風邪だったらうつるぞ?」
「わたしそんなに柔じゃないですよ?大丈夫です、心配掛けるような事にはしません。だからゆっくり休んで下さい」

まだ何か言いたげなイゾウから手を離し、船医に処方された解熱剤を差し出すと、素直に身体を起こしそれを口にする。
その動きは緩慢に見え、ルリはあの場から強引にイゾウを連れて来たのは間違いでは無かったと、小さな安堵のため息を零した。

「世話かけて悪ィな…」
「このくらい何でもないですよ。でもやっぱりいつものイゾウさんが良いから…だから早く治して下さいね?」

冷やし直したタオルを改めて額に乗せ、シーツを丁寧に掛け直す彼女の姿を目を細めて見ていたイゾウだったが、薬が効いて来たのかゆっくりと目蓋を閉じた。

「おやすみなさい、イゾウさん…」

程なくして寝息が聞こえ、起こさない様に気配を殺してルリが覗き込むと、イゾウは穏やかな表情で眠っている。
これなら長々と寝込む事はないだろう――安心したルリは、暫くそのまま眠るイゾウを眺め続けていた。





どのくらい眠っていたのか、明るかった室内にはランプが灯され、窓の外は暗闇だった。
目を覚ましたイゾウの身体は薬を飲み早々に休んだお陰か軽く、この様子なら明日には普通に動けそうだとイゾウはルリに感謝の気持ちを向けた。

「ルリ…?」

そのルリの動く気配が感じられず、しっかりと隙間なく毛布に包まれていた身体をそっと横に向ければ、床にぺたんと座りベッドに顔を伏せ眠るルリの姿。

「風邪引いちまうじゃねェか…」

起きて毛布を掛けようとしたイゾウだが、動きを止めると眠るルリの顔を隠す前髪をそっと除け、その頬をすりと指で撫でる。
触れた頬は少し冷えていて、ぐっすりと眠っているのか目覚める気配はまだない。

静かにルリに近付いたイゾウは僅かに逡巡すると、彼女の額にそっと口付けた。

「ん……?」

もぞっと身体を動かしたルリが目を覚ますより早く、イゾウは彼女を抱え上げる。
ふわりとした浮遊感に急速に覚醒したルリが、状況を理解出来ずにわたわたとする間にすとんと降ろされると、イゾウの脚の上にぺたりと座り込む格好になってしまった。
スッキリとした表情のイゾウの顔が、近い。

「イゾウさん…っ、何してるんですか!?」
「寝るぞ」
「へ…?」
「俺の所為でルリまで調子悪くなったら、オヤジに会わせる顔がねェ」

その理屈でこの状況…納得出来る様な出来無い様な…どうしたものかと煩悶とする間にもイゾウはルリを抱える腕に力を込める。

「わ、分かりましたからっ…!」

このままでは靴を履いたまま引っ張り込まれ兼ねないと、慌ててルリが脱ぎ捨てたブーツの落ちる音を合図に、イゾウは強引にルリごと毛布に潜り込んだ。

「もう…何考えてるんですか…」

諦め半分で呟くルリを抱き込みながらイゾウがくつりと笑うと、その声を聞いたルリは腕の中からイゾウを見上げて微笑む。

「でも良くなったんですね…よかった」

ほっとした様子のルリの後頭部に添えた手で優しく頭を撫で、耳元でポツリと「ありがとな」と呟いたイゾウの声に耳を擽られ、ルリは逃げる様に毛布の深くへ潜ってしまった。
そこは温かく、より一層イゾウが近くて……でも離れ難くて、ルリは少しだけイゾウに擦り寄った。

「イゾウさんあったかい…です」
「俺はルリが冷たくて丁度いい」

少し冷たいその手を握ったイゾウが、再びルリを引き上げ胸元に抱きかかえ直すと、二人は静かに目を閉じた。

fin.
(2014.11.27一部加筆、修正)


prev / index / next

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -