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Gift

*サッチ視点。

モビーは二週間振りにとある島に寄航中だ。
久々の陸だっていうのに運悪く船番を引いた自分の籤運の悪さを恨みつつ、夕飯の仕込みに入ろうかとしていた俺の所にルリが駆け込んできた。

「サッチーサッチ!」
「おう、どうしたルリ。デートなら今日は出来ないぜ?」
「今からキッチン借りていい?勿論仕込みは手伝うから!」

俺の言葉をさらっとスルーしやがったけど、お願い!と両手を合わせるルリの頼みを断る理由は無い。

「構わねぇけど、なにすんの?」
「今日16番隊も船番だから、イゾウさんにご飯作りたいの」

はいはい、そういうコトね。
まぁ俺としてもルリの手伝いは有り難い。
それにコイツがイゾウに作るって言ったらワノ国の料理なんだろうから、それを間近で見られる機会は滅多に無いしな。
「ありがとう、準備してくるね!」と嬉しそうに出て行くルリを見送って、夜間用の簡易キッチンを空けておく様に指示を出す。

暫くしていくつかの調味料と自前の包丁に土鍋まで抱えて戻ってきたルリは、長い髪を纏めると持ってきた米を研いで笊に上げ、すぐに俺のやっていた皮むき作業を手伝いに来る。
するすると手際よく皮を剥いていくコイツは、正直すぐにでも4番隊に欲しい。
でも例えマルコが手放したってイゾウが黙って渡すとは思えないけどな。

「サッチの包丁、まだ研がなくて大丈夫?」
「あぁ、ルリに手入れして貰うと持ちが良いからな」
「サッチは包丁だけは大事に使ってくれるもんね」
「だけって何だよ、だけって…」
「サーベルの刃毀れは、ハルタよりいつも酷いよ?」
「あーだってルリが打ち直した後は切れ味が特に良いから、ついやりすぎんだよな」

ルリは戦闘員であると同時に刀鍛冶だ。
といっても本人は本職にする積もりは無いらしく滅多な事では打たないのだが、長い航海の途中で直して貰えるのはマジで助かる。何気に腕も良いし。

雑談をしながらも、あっという間に下ごしらえが終わった。いつもより少ないとはいえ、それでも数百人分が一瞬だ。
あぁ、マジで4番隊に入れたい。

そのまま休憩もせず、ルリは自分の調理作業に入る。
丁寧に出汁を取り、野菜を剥いていく。ただのざく切りでは無く一つ一つに丁寧に下包丁をいれ、面取りをして……お、人参が花の形になってやがる。

「ルリって器用だよな」
「そう?まぁたまにならこの位の手間も面倒じゃないしね」

「毎日だったらムリムリ」と言いながらも手を休める事無く、煮物と味噌汁を作り茄子を水にさらし、下処理をした魚に化粧塩を施して…おいおい、何品作る気だよ。

「んー……一汁三菜?」
「イチジュウサンサイ?」
「うん、汁物ひとつにおかず三つって事。ワノ国の基本的なお膳の形なの」
「ほー」

普段馴染みの無い調理法を色々見られるのは楽しい。今度いくつか教えてもらおう。俺っちは勉強熱心だからな。
厨房に入る隊員達も、興味深そうに代わる代わる覗きに来ている。

洗った米を土鍋に入れ火に掛けたところで、ようやくルリは椅子に腰掛けた。

「はー…久し振りに本気出した!」

んーと伸びをしながらルリは満足そうな顔をしていた。
土鍋から米の炊けるいい匂いがしてくると、ルリは注意深く土鍋の立てる音を聞き「よし!」と呟いて火を止めた。

「イゾウさん呼びに行くけど、絶対に土鍋の蓋開けないでね!振りじゃ無いからね!?」

しつこく念を押して小走りで出て行くルリに返事をして、俺も調理の仕上げに入った。



食堂に戻ってきたルリはすぐにまたキッチンに入り、手早く卵焼きを巻いていく。
カウンターに座って煙管片手にその様子を眺めるイゾウをチラリと見ると、心持ち表情が何時もより緩い…気がする。アイツはポーカーフェイスだから判り難いが、それでも判るってどんだけ緩んでんだよ。
まぁ、キッチンに立つ女の子の後姿が最高なのは良ーく判る。それが惚れた女なら尚更だよなあ。うん。

エプロンを外していつもの席に着くと、二つのトレイを手にしたルリはひとつをイゾウの前に、もうひとつを俺の前に置いた。

「ん?俺のも?」
「味見分位しかないけど、食べてもらえると嬉しい」
「おう、ありがたく頂く」

自分のトレイを持って俺の隣に座ったルリは、土鍋からご飯をよそう。

「お待たせです」
「ルリお疲れさん、頂くぜ」

そう言って自前の箸を使い、慣れた所作で二人は食事を始めた。よく見たら長さと色は違うが揃いの箸だ。いつの間に。

俺は備え付けの箸を使って味見をする。
ああ、マジ美味いな。今はまだ俺には出せない味だけど。
そう言うと、何故かイゾウが当たり前だと答えた。普段は俺の飯を美味いとか言わない癖に、ルリにはどんだけ言えば気が済むんだコイツ。

「サッチのご飯、いつも美味しいよ?」
「え?今俺口に出してた?」
「ううん、顔が思いっきりそう言ってた」

クスクスと笑いながら立ち上がり「お茶淹れて来ますね」とルリはキッチンへと消えて行く。

「いい女だよな、ルリって」
俺がそう言うとイゾウは片眉を少し上げ、一瞬不快そうな表情をした。
安心しろ、そう言う意味じゃねーよ。

ルリが淹れて来たお茶は、いつもより良い香りがした。
ってか何気に湯飲みまで揃いじゃねぇか。何なのこの二人。

つーか俺、邪魔じゃね?

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