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Whispering


「…ルリ何してんだ?行かねーの?」
「ん?みんなを見てるの。いってらっしゃい、サッチ。楽しんで」

「どうした、こんな所で」
「お見送りです。今日はほどほどにして下さいね?ビスタ隊長」

「ルリも一緒に飯食うか?」
「ううん、今日はいいや。ありがとう、いっぱい食べてきてね」

港から街への入口、島のシンボルの様なゲートの足元に座り、夜の街へと繰り出すクルーを見送り、一人一人と言葉を交わすルリ。

「あれ?ルリは行かないの?」
「うん、今日はゆっくりしたい気分なの」
「じゃあお土産買ってくるね」
「何か有ったらすぐに連絡しろよい」
「はーい、いってらっしゃい」


投げ出した足をぶらぶらと、時には鼻歌交じりに皆を見送る姿は楽し気で、行き交うクルーは皆つられて笑顔になっている。

「随分と楽しそうだな」
「あ……そうですか?うん…楽しいかもです。親父はいつも、こんな気分なのかなあって」

甲板の指定席で家族を眺め目を細める白ひげの姿を思い出し、ルリはふふっと笑みを零す。

人の流れが切れた頃、遅れてやってきたイゾウは街へ向かう足を止め、ルリの隣りに拳ひとつ分ほど間を空け腰を下ろした。
思いかけず近い距離に、行き場を失った視線を誤魔化す様にルリは夜空を見上げる。

「…イゾウさんは行かないんですか?」
「そうだなァ…そのつもりで出て来たんだが」

静かに輝きを増しつつある月をルリと同じく見上げ、ふっと一息吐くイゾウ。

「綺麗です、ね…」

その姿を視界の隅で捉え、思わず口に出してしまう。

「…あァ、それに静かだな」

ルリの本意に気付いているのか否か…例え気付いていても、きっとイゾウはそ知らぬ顔で流してくれるのだろう。
確かに人の流れも落ち着き静かだが、その所為でトクトク煩い自分の心音が耳に付きルリは落ち着かない。

「あ…そうだイゾウさん、街でお酒仕入れて親父の所に行きませんか?」
「オヤジと?」
「はい。ダメですか?」
「いや、それも悪くねェな」

「こんなに月の綺麗な日に、ドクターだって文句は言いませんよね」そう言って笑顔で立ち上がったルリを、位置を高くした月の光が背後から照らす。以前イゾウが贈った髪飾りの石が月光を湛え、静かな光を放つ。

「…確かに、綺麗だな」
「はい?」
「いや…何でもねェ、行くぞ」

ぽんとルリの頭を叩いて促すと、イゾウは先に立って歩き出した――



* * *



「羽目外し過ぎるんじゃねェぞ」
「いってらっしゃい」

穏やかに酒を酌み交わす三人に、先日新しく家族に加わったクルーが挨拶をして下船して行く。

「こうやって、家族が増えていくのはいいモンだ。生きてるうちに、もう一世代くらい見てえモンだが…」
「マルコ隊長とかに…あー、無理ですよね…あの人は…」

「だって親父に夢中ですもんね」と、皆が思ってはいるが口に出来ない事をしれっと、他人事の話題の様に言うルリに、白ひげとイゾウは顔を見合わせる。

「…グララララ!!」
「ほえ?どうしたんですか?」
「いや、何でもねえ。イゾウ、おめえも苦労するな」
「オヤジには済まねェ、が…これはこれで、悪くねェモンなんだ」

二人の間では何やら共有の認識が有る様で、再び顔を見合わせ笑い合うと、それぞれ手元の酒をぐいと一気に呷る。

「えー、何ですか男同士で!」

空になった盃に酒を注ぎつつ抗議するルリも、話は分からずとも上機嫌な二人に囲まれ、言葉ほど不機嫌では無い。

「こいつぁ…まだまだ長生きしなきゃなんねえなあ!」
「当たり前です!」
「宜しく頼むよ、オヤジ」




夜も更け、月が再び低くなり始めた頃。
船長室へと退がる白ひげを見送った二人も、空になった樽や瓶を片付けそれぞれの自室へと向かう。

「親父、ご機嫌でしたね。体調も良さそうだったし…声掛けて良かった」
「そうだな。随分と饒舌だったしな」
「ホント、孫が欲しいみたいな事言うな…んて…え、……」
「どうした?」

はっと息を飲み、一瞬足を止め何かを逡巡したルリ。
チラリとイゾウの方を見遣り直ぐに歩き出すが、イゾウの方を再び見ようとはしない。

「いえ、もしかしてさっきのって…ううん、何でも…ないです…」

独り言つ言葉はどんどん小さくなり、最後は殆ど聞こえなかった。しかしそれと反比例して、みるみる赤くなるルリの頬が耳が首元が、漸くあの会話の意味を理解したのだと、雄弁に語る。

「ルリー?」
「…はい?」

ずんずんと歩き出したルリは振り返る事が出来ず、小さな返事を絞り出す。

「ルリは気にすんな、アレは男同士の話さ。楽しかったよ、おやすみ」

ククッと喉で笑いながらぽんと背中を叩くと、あわあわと面白いくらいに跳ねたルリをイゾウはするりと追い越して行く。


「おやすみ、なさい…」

ひらひらと肩越しに振られる手にそう返してはみたものの、とてもじゃないが眠れる状態では無くて。

「お酒…残ってるかな…」

イゾウが自室へと入るのを見届けたルリは、火照る身体と逆上せる意識を醒まそうと、よろよろと踵を返した。

fin.

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