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Like a spring

春のように暖かな日は
いつも少しだけワクワクする

思えば子供の頃
冒険をしたくなるのは
決まっていつも春だった


大人になった今でも
気候がいいと心が弛むのは何故?

いつもなら意識して躊躇う事とかも
まぁいいかなってつい許容してしまう


そんな日はイゾウさんが
ほんの少し大胆になるみたいだと
気が付いたのは最近の事











「今日は暖かいですねぇ・・・」

陽気に誘われ休憩がてら甲板に出てみれば、そこに居たのはイゾウとエース。
珍しい組み合わせに思わずルリは足を止め、肩から羽織っていたストールを外し、足を崩して座り込んだ。

「今日みたいな日を“小春日和”って言うんですよね?」
「あァ」
「ハル?それ間違ってんじゃねぇの?」
「いや、合ってるよ」
「なんでだ?ここって冬島海域だよな??」
「うん」

胡座をかいてゆらゆらと身体を揺らすエースの顔は、たちまち疑問符でいっぱいになる。

「冬なのに春みてェな陽気の事だからな」
「冬…春…難しいな・・・とにかくあったけぇから昼寝したい気分だ」
「うん、わたしもそう思ってた」

ごろりと横になりながら首に掛けたテンガロンハットを胸元に回し、自分の腕を枕にエースは早くも夢現だ。

「寝るのと食べるのは、ホント早い…」

くすくすと穏やかに笑うルリの隣りで、イゾウは呆れた様な表情を見せる。

「誰でも何かしら取り柄は有るモンだよな」
「…反応に困る事言わないで下さい」

“火拳”に対して随分な言い様だが、イゾウらしいその言い方に、ぐうぐうと眠るエースを見ながらルリは苦笑する。

「ルリ」
「はい?」
「膝借しな」
「…え??」

言うや否や返事も聞かず、イゾウはルリの膝を枕に仰向けに寝転がった。

「えぇっ…イゾウさ…」
「エースが起きるぞ?」

薄雲から零れる陽光に眉を顰め、腕で陽射しを避けながら言うイゾウにルリはハッとなって、慌てて口元を覆う。

「あ、れ…?でもエースは、これくらいじゃ起きませんよね?」

思わず押し黙ってしまった所為で、膝を貸す事に抵抗するタイミングを逸してしまった。
イゾウを見れば、ニヤリ、としたり顔だ。
今更ダメとは言えず…キョロキョロと周囲を見回すも幸い人影は無い。ルリは腹を括って小さく深呼吸をすると、途端にトクトクと心臓が音を立て始める。

「…イゾウさん、冷えますよ?」

見た目はエースの方がよっぽど寒そうなのだが…雪の日でもたいして服装の変わらないエースにはこの際とりあえず目をつぶる。
言いながらルリは、傍に置いていたストールをそっとイゾウに掛けた。

「ルリは寒くねェのか?」
「お陰様で…暑いくらいです」

微かに頬を赤らめて視線を逸らしながら言うルリに、イゾウは目を細める。

「じゃァ遠慮なく借りとくよ」
「えぇ、おやすみなさい」

腕を組みながらごろんとルリの方へ顔を向け、もぞっと頭の位置を直したイゾウはゆっくりと目蓋を閉じる。
その拍子にずれたストールをそっと掛け直したルリは、広がる空を見上げた。


太陽に掛かっていた僅かな薄雲は晴れ、見渡す限り何処までも続く青い空。
雲の流れも殆ど見られないので、当分はこのまま穏やかな状態が続くだろう。

モビーの躯体が波を割る音が、耳心地良い。


(イゾウさん、本当に寝るのかな…?)

そっとイゾウの背に手を添えてみる。
緩く上下するその様子は、どうやら本当に眠ってしまっている…様に思える。

真昼間の甲板で昼寝をするイゾウを見た記憶は一度しか無い。
あの時はいつの間にか隣りで寝ていたのだが、今回は自分の膝の上。
服越しとは云え直接寝息の掛かる足から感じるイゾウとの今の距離に、ルリは耐え切れず再び天を仰いだ。

空は変わらず何処までも青く抜けている。
隣りで眠るエースも、気持ち良さそうな寝息を立てていた。

いつの間にかトントンと、寝かし付ける様に動かしてしまった手を、慌てて止める。
ピクリとイゾウの眉が動いた様に見え、ルリは恐る恐るその寝顔を覗き込んだ。

(よかった、寝てるみたい…)



本当はずっと起きているのかもしれない。

でも、イゾウがまだこうして居たいのなら…自分ももう少しこのままで居たいから。
寝ている事にしておこう。

そう思いながらイゾウの額に落ちる髪を除けようとしたルリの少し冷えてしまった指先をイゾウの手が掴み、暖かいストールの中に引き込んだ。


「…イゾウさんは寝てても優しいんですね」


ルリが態と声に出して呟くと、イゾウの口元は僅かに弧を描いた。

fin.

「…珍しい光景だなぁ……」
「あそこに混ざれるエースがすげぇよな…」
「なーんも考えて無いんでしょ」
「で、誰が声掛ける?」
「バカな事言うんじゃねえよい」
「言い出しっぺの法則って、知ってる?」


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