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Wonderful problem


敵襲も上陸もご無沙汰で、身体がなまってた…のは、みんなも同じだったみたいで。


「あ、やべ…避けろルリ!」
「え?…うそ、…無理…っ!」


それでも角を曲がった瞬間、両手で大きな荷物を抱えてたとは云え、まさか直撃を喰らうとは思わなかった。

…イゾウさんに投げ飛ばされた、サッチの。




「あ…あの…」
「どうした?ルリ」
「遠慮すんなっての」

食堂の片隅、いつもの場所で。

「俺っちが悪りーんだから、俺が食わせてやるってんだ」
「それなら俺だって同じだろ…だいたい、何でてめェは無傷なんだよ」

ちょっとだけ、居心地の悪いわたし。

「いや、あの…うん、気持ちは嬉しいんですけど…」

サッチと荷物の下敷きになって両手を負傷するという、何とも情けない状態になったわたしに、当事者のイゾウさんとサッチがあれこれと世話を焼いてくれている。

その気持ちは本当にありがたいのだけど…

「頑張れば自分でも食べられるし、今日一日くらい食べなくても…ね?」

イゾウさんに食べさせて貰うなんて、想像しただけで顔から火が吹きそうになる。
だからと言って、サッチだけという訳にもいかないし…

「そういう訳にはいかねーっての」
「じゃあ誰なら良いんだ?」
「…ジョズ隊長とかビスタ隊長…?」
「二人とも船番だな」
「うー…」

何で怪我したわたしが、罰ゲームみたいな事になってるんだろ…

例えイゾウさんでも、無理なモノは無理。
もう…誰か……

「ルリ怪我したんだって?ん?何で泣きそうな顔してんだ?痛えのか?」
「エース!」

イゾウさんの小さい舌打ちは、聞こえなかった振りをした。


ごめんね、イゾウさん…
だって、本当に恥ずかしいの…


「エース、お肉はもういいかな…」
「そうか?うめぇぞ?」

イゾウさんの目線が少し痛いけど、エースは気にしてないし、サッチはニヤニヤ笑ってて…わたし的には何とか丸く収まってホッとしたのが本音。

でもちょっとだけ、残念だった…かな?



「何かごめんなさい、荷物まで持たせて」
「ルリは悪くねェだろ?巻き込んで悪かったな」
「いえ、ぼんやりしてたわたしも悪いんです。それにせっかく…」
「せっかく?」
「あっ…あの、気持ちは凄く嬉しかったんですけど…みんなの前だと恥ずかしくて…」
「なんだ、二人なら良かったのか?」
「え、えぇっ…!?」

ククッと笑ったイゾウさんが、ニヤリと何かを企んだ顔をしたのが視界の隅に見えた。

しまった、やな予感…

「夜は俺の部屋に運ばせりゃ良いな?」
「…拒否権は…なさそうですね…」
「さァ?」
「うー。何で手を怪我しちゃったかなぁ、わたし…」

楽しそうに笑うイゾウさんは、半泣きのわたしの両手をそっと取ると

「痕の残るような怪我じゃなくて、安心したよ」

一瞬真剣な顔で、そうポツリと呟いた。

ドキドキと高まる鼓動が痛めた指先にまで届いて、ズキズキと痛む。

「…今度はちゃんと、避けます」
「そうして貰えると有り難いな」
「サッチを投げ飛ばさないって選択肢は無いんですか?」
「それはねェよ」

きっぱり言い切ったイゾウさんに苦笑を向けると、不自由な手で払い切れなかった髪をそっと耳にかけられて、顔が赤らむのが自分でも分かった。

「あ…」

顔を覆いたいのに、手がこの状態なので仕方なく下を向いた。
せっかくかけて貰った髪がハラリと落ちて、またかけ直され、ドキドキがいつまで経っても止まらない。


自分の部屋までの距離が、いつもの倍くらい長く感じられた。


「ありがとです。あの、ホントに…?」
「嫌なら無理にはさせねェけどな。ルリに任せるよ」
「…嫌じゃない、です」
「じゃァ、それまで大人しくしてな」

ストローを差してくれたマグカップと荷物を置き、そっと扉を閉めたイゾウさんの気配を見送って、ぽふんとベッドに飛び込んだ。

どんな顔してイゾウさんの部屋に行けば良いんだろ…


「あ…親父呼んだら、イゾウさんどんな顔するかなぁ…」

…だって、わたし一人じゃイゾウさんに敵わないから。

悪戯みたいに思い付いて、ふふっと笑った途端、盛大に眉を顰めて複雑な表情のイゾウさんが浮かんだ。
申し訳ないのとちょっとだけ後が怖いのとで、それはそーっと奥に押しやった。

「あ…」

ふと一口だけ触れたそのストローをイゾウさんが入れてくれたと思っただけで、飲み物より熱く早く、熱が全身を駆け巡って行く。

「うぁぁ…どうしようやっぱり無理だぁ…」


夕食を知らせる鐘が鳴るまで、わたしとドキドキの必死の格闘は続いた。

fin.

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