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幸せのかたち

※マルコとのお話です。

「ルリ、明日少し時間取れるかよい?」
「あ、はい」
「ちょっと付き合って欲しい場所があんだよい」

寄港の前夜、仕事を終えて部屋を出ようとしたわたしにマルコ隊長がそう声を掛けて来た。
断る理由なんて無いけれど、何かを含んだその空気に「わかりました」と即答した。



マルコ隊長と降りたそこは、前の船の時にも寄った事のない、初めての島。
人も空気も暖かくて、白ひげ海賊団にも好意的だ。

珍しくシャツの前を留めて親父の誇りを隠したマルコ隊長は、私にも刀を置いて銃は隠す様にと言った。マルコ隊長と一緒なら大概の事は心配要らないので、素直に従い後に続いた。


「隊長は、以前に来た事が有るんですか?」

慣れた様子で中心部から外れた道を行くマルコ隊長の足元を見て歩きながら疑問を投げかけると「10年前に一度だけ」と、短い答えが返って来た。


海が見渡せる小高い丘に有る、屋根も壁も真っ白な一軒の家が見えた所で、マルコ隊長は足を止めた。

「ここ…?」
「ああ。ま、暫く座ってろよい」

そう言って一本の倒木に腰を下ろしたマルコ隊長に倣って、わたしも腰を下ろす。

てっきり情報収集か買い出しのお供かと思っていたわたしは、予想外のマルコ隊長の行動に、ただぼんやりと流れる雲を眺め続ける。


暫くするとその真っ白な家から出てきた母子が、広い庭で仲良く洗濯物を干し始めた。

「マルコ隊長…?」

何をしたいのだろう?とチラリと隣を見ると、目を細めてじっとその様子を見つめていたマルコ隊長が、安心した様な表情で小さく頷いた。
マルコ隊長のそんな顔、初めて見た気がする。

「ルリ、あいつはな、オヤジの娘なんだよい」
「え…?」
「陸の暮らしを選んで降りちまったがな、それでもオヤジの娘である事は変わんねぇよい」
「……」

マルコ隊長がわたしに見せたかったのは、"お姉さん"の姿だった。
その裏に隠された意図に気付いて、チクリと少しだけ心が痛んだ。

「―――らしくない事しますね?」
「余計な事だとは思ったけどよ…気ィ悪くしたんなら謝るよい」

返事の代わりに、小さく首を振る。

「ま、お前はベイみてぇなタイプだよな」
「ちゃんと分かってるじゃないですか」
「悪かったよい。あぁ、降りろつってる訳じゃねぇからな?そこだけは勘違いすんなよい?」

色んな生き方が、幸せが有って、どれが正解でどれが間違いかなんて答えはない。
マルコ隊長は、一つの形を、どれを選んでもいつまでも家族だという事を見せてくれたかったんだと思う。

「――…はい、解ってます。ありがとう、マルコ隊長」

それでもわたしは、ずっと親父の側に居たいし、イゾウさんの居るモビーに居たい。


立ち去ろうとした時、子どもの楽しそうな笑い声が聞こえて振り返る。


…あぁ、真っ白なあの家は親父の色なんだ。
海の見える丘で、親父の色の家で暮らすお姉さん――

「声かけないでいいんですか?」
「あぁ、白ひげの娘だってわざわざ周りに言う事もねぇだろい」

親父の誇りを隠したマルコ隊長の優しさは、きっとお姉さんにも届いてる。

誰より家族思いな長男の、少し捻くれた優しさに不意に少しだけ滲んだ涙は、海からの風が拭ってくれた。


「たまには二人で一杯やるか?」
「奢りですか?」
「調子に乗んじゃねぇよい」


無性にイゾウさんに会いたくなってしまったけれど、今日くらいはマルコ隊長に思いっきり甘えてみようかな、なんて。


fin…?



「マルコがルリ連れて降りるなんて珍しーよな」
「ここはあいつが居るからだろ。余計な事しやがって…」
「ルリが不死鳥の女って噂立ったりしてな」
「………」
「ぶはっ、イゾウ今の顔傑さ…ちょ、待てって冗談だってばよ!?」


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