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With you

「あ、イゾウさんイゾウさん!」
「どうした?ルリ」

停泊中のモビーの甲板で、幾人かの隊員を伴って買い出しの為の下船準備をしていたイゾウの元に、珍しく慌てたルリが駆け寄って来た。

「よかった、まだ居た…今日の16番隊の武器買い出し、一緒に行く様にってマルコ隊長が」
「1番隊は非番だってのに、容赦ねェなマルコは」
「だいじょぶですよ?イゾウさんのお供の仕事なら嫌じゃないです」

笑顔で応えるルリに、仕事とは云え一緒に船を降りるのは久しぶりだと気付いたイゾウも連られて表情を緩める。

「もうすぐ降りる。急いで準備してきな。買い出し終わりゃ自由なんだろ?」
「だと思います」
「なら、そのまま何処か行くか?」
「…!行きます!準備してきますねっ!」

言い終わる前に駆け出したルリの後ろ姿を見送り、連れて行く予定だった隊員に別の隊務を与えたイゾウは船縁に凭れ掛かり、傍目には判らないが上機嫌で紫煙を燻らせる。

「お待たせです」

いつも通り大判のストールを腰に巻いて両足のホルスターを隠し、珍しく日除けにつばの大きな帽子を被ったルリが軽く息を切らせながら戻って来た。
イゾウが一緒だからだろう、普段は携えたままの愛刀は今日は外されていた。

共に降りる事を楽しみにしている事がありありと判るその表情に、イゾウも隠すこと無く再び口元を緩めた。

「何で笑うんです?」
「いや、何でもねェよ。行くぞルリ」


白ひげ海賊団の縄張りで有る為、穏やかで比較的大きなその島には武器屋が数軒有り、モビーの弾薬庫を満たすのに十分な在庫を備えていた。

「明後日パドルもここに着くらしいんで、そっちの分の手配をして置けって」

パドルシップの備品管理はルリの仕事だった。
全ての店から均等に武器を仕入れ、後で隊員が受け取りに来る為の手配を整えると、二人は特にあても無く街を彷徨う。

イゾウの背中の白ひげの誇りと、すれ違う隊員たちが挨拶をする様子さえ無ければ、二人が世界にその名を轟かす白ひげ海賊団のクルーだと気づく者は皆無に近かった。

その位、二人の纏う空気は穏やかだった。

「ルリは行きてェ場所は無いのか?」
「んー、特には無いです。欲しい物も今は無いですし…」
「相変わらず欲が無ェな、ルリは」
「それ、海賊に言います?」

ハハっと声を出して笑ったイゾウに、偶々すれ違った隊員が驚いて振り返る。

「あ、イゾウさん。わたしモビーが上から見える所に行きたいです」

ルリのその一言で、二人の足は街の裏手に見える丘へと延びる坂道へと向かう。

「一人の時はたまに見てるんです」
「いつも乗ってるのにか?」
「乗ってる時も大きいなぁって思うんですけど、離れて見ると大きさが実感できると言うか」

徐々に視界に入ってきたモビーを見て嬉しそうに歩を早めながら、ルリが続ける。

「だってあれ全部家族なんですよ?親父の偉大さの象徴で、そこにわたしも居るんだなって思うと嬉しくなるんです」

眼下に佇むモビーは、確かにその大きさと存在感をまざまざと主張し、ジョリーロジャーが誇らしげにはためく。

「あ、エースがサッチに追い掛けられてる」

ジョズがクリエルが…と、馴染みの姿を見つけては楽しそうに声を上げるルリを、海からの突風が襲う。
慌てて帽子を押さえてほっと息を吐いたルリを半歩後ろから見ていたイゾウは、ゆっくり煙管に火を入れながら隣に立った。

「ルリ」
「はい?」

頭一つ上から呼ばれた声に顔を上げようとしたルリの被る帽子を徐にイゾウは取り上げ、ルリの胸元にぽすっと押し付けた。

「ほぇ?」
「もう陽が陰って来たから外しな」
「でも、被ってる方が邪魔じゃないんですけど」
「被ってると、表情が見えねェ」
「!?」

しれっと言い放つイゾウの一言に、みるみるルリは耳まで赤くなり、手にした帽子で顔を覆う。

「そんな事言われたら、帽子取ったってイゾウさん見れない、です…」
「それじゃ意味ねェだろ」
「だったらそういう事、言わないで下さい」

顔の下半分は覆ったまま、チラリとイゾウの方を見たルリの頭を、イゾウがぽふんと撫でる。

「あ、イゾウさん…」
「ん?」
「モビーからもきっと見えてるから…」
「あァ」

モビーを見遣ると、無邪気に手を振るエースと、咥え煙草でニヤニヤと何か言いたげなサッチが二人揃ってこちらを見ていた。

「見せ付けてやるか?」
「なっ…やめて下さいよ?モビーに帰れなくなっちゃう」

暗に触れられるのは嫌ではないと言っている事に気付かないルリの手を握ると、イゾウはサッチにゆっくりと銃口を向け、銃弾の代わりに覇気を飛ばす。

「弾一発でも、サッチには勿体無ェ」
「あはは、今のサッチの顔。面白かった」

懐に愛銃を仕舞うと、握ったままのルリの手を引いてイゾウはゆっくりと歩き出す。

「イゾウさん、今日はありがとです」
「あァ。行きたい場所が有りゃ遠慮せず言いな?そのくらいいつでも付き合ってやる」
「はい…あのね、イゾウさん」

今度は眼前に高くそびえる様にモビーが見え始める。
そっと繋いだ手を解いたルリは、小走りで数歩前に行きイゾウの方へ振り返った。

「イゾウさんと出掛ける以上に、したい事なんて無いんですよ?だからわたし、充分に欲張りです」

イゾウをしっかり見据えながら小さな声でそう言って、じわじわ赤くなった顔を隠す様に手にしていた帽子を深く被り直すと、ルリはモビーに向って駆け出した。

「いつもイゾウさん意地悪言うから、仕返しです」
「っ…おい、ルリ」

咥えようとしていた煙管を中途半端に持ったまま固まるイゾウに、満面の笑みでそう言い残し、ルリは軽い足取りでモビーのタラップを駆け抜けて行った。

fin.

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