Home | ナノ

Snow drop

さらさらと降り積もる雪。
モビーの広い甲板は、一面の雪景色だった。
最初こそ雪遊びに興じるクルーの姿も見られたがすでに甲板に人影は少なく、クルーたちの興味は明日の雪掻きが何番隊になるか、という事へと移っていた。


まだ僅かに雪の降る中、人が少なくなった事を確認してそっと甲板に出る人物が居た。踏み荒らされていない場所を見つけると、ぽふんとそこに自ら埋まり雪の冷たさを物ともせずにそのまま空を眺めている。

暫く後、船室とつながる扉から付けられたその一筋の小さな足跡を辿る人物が居た。足跡が途切れた先、人型にぽっかりと開いた穴の中に目的の人物を見つけ覗き込む。


「あ、イゾウさんー」
「なに一人で埋まってんだ」
「ふふ。イゾウさんもやります?」

手袋も嵌めずにわしゃわしゃと周囲の雪をかき混ぜながら、ルリは楽しそうに言う。

「いや、遠慮しとく。見てるだけで冷えちまう」
「楽しいですよ?」
「お前さんは時々急に子供みてェな事するよなァ」
「だって、もう海には入れないし湯船にも浸かれないし…全身を流れる水以外の水分に浸せるのって、雪だけですもん」
「そんだけ着込んでりゃ雪なんか感じねェだろう?」

耳当てにマフラー、ダウンのハーフコートのフードをすっぽり被って楽しそうにごろごろとルリは雪の中を転がっている。
一方イゾウの方はというと、道行きを羽織って両腕を袂から懐へ入れて組んでいるだけで他に防寒具を身に付けては居ないが特に寒そうな様子も見せず、はしゃぐルリの姿を目を細めて見守っている。

「そうなんですけど…気分だけでも?」
「気分、なァ…」
「どうしました?」
「いや、雪見酒ってのも悪かねェかと思ったんだが」
「…かまくらでも作ります?」
「ルリがか?」
「イゾウさんが作ってくれますか?」

雪に埋もれたままのルリとそれを見下ろすイゾウは僅かな間無言で顔を見合せていたが、すぐにどちらとも無く肩を振るわせ始めた。

「ぷ…あはははは。イゾウさんがかまくら作る姿って…」
「…勝手に想像してんじゃねェよ」
「じゃあイゾウさんは何想像して笑ってるんですか?」
「・・・・」
「やっぱり自分でも想像して…あはは」
「笑うんじゃねェ」
「だって、浮かんじゃったから…もう可笑しくて…あー苦しい」
「ルリは笑い過ぎだろ」

完全にツボに入ったらしいルリは雪の中でおなかを抱えてコロコロと笑い続ける。その横に屈み込み笑うイゾウの姿を見た甲板に居た僅かなクルー達は余りの珍しさに一瞬固まったまま凝視していたが、すぐに見てはいけない物を見た様な顔で目を反らしていた。

「明日ウチが雪かき引いたら作ってやるよ」
「イゾウさんが?」
「ルリはどう有っても俺に作らせてぇみてェだなァ」
「あはは。見たいけど見せたくないです、そんなイゾウさん」

ぱふっとフードを外しながら、ルリはゆっくりと上体を起こす。

「いっぱい笑ったから暖かい」
「手、真っ赤じゃねぇか。こっちに貸しな」

漸く懐から両腕を出したイゾウが、冷えて真っ赤になったルリの手を取り自らの袂へ導く。

「…イゾウさんの手、あったかい」
「ずっとしまっといたからな」
「ありがとです」

イゾウがいつもならすぐに手にする煙管を一度も取らず両手を懐に入れたままだった理由に気付いたルリは、雪で冷えた頬を僅かに赤らめて視線を反らす。

降り止むかと思われていた雪が再び少しずつ強くなり、二人の肩に薄っすらと積もり始めた。

「戻りますか?」
「もう満足したか?」
「充分です。イゾウさんが風邪引いちゃったら大変」
「そんなヤワじゃねェよ」

握ったルリの手を引きながら、イゾウは立ち上がった。
片手は繋いだままで、薄くなった二筋の足跡を逆に辿り二人は船内へと向かう。

「燗酒でもやりてェな」
「いいですね。かまくらは無いけど雪見酒です」
「お前さんはまだ言うか」
「だって、楽しかったから。イゾウさんのお陰ですよ?」

扉を開けると同時にどちらからとも無く手を離し、イゾウはルリのコートに積もった雪を払い耳当てを外すとマフラーに抑えられていた髪をさらりと整えた。

「食堂で待ってるから着替えて来な。風邪引くんじゃねェよ?」
「はい、いってきますね」

久しぶりに取り出した煙管に火を入れながら自室へと向かうルリを見送ると、イゾウは自らに積もった雪を払いながら食堂へと向かって行った。



翌朝、外から聞こえる賑やかな声に気付いて目を覚ましたルリが甲板へ出ると、広い甲板中の雪をかき集めて作られたらしい大きなかまくらと、その周囲にへたり込む16番隊隊員たち、そして一人涼しい顔で煙管を吹かすイゾウの姿があった。

つい言ってしまったばかりに16番隊の皆には申し訳ない事をしたと思いつつも、イゾウの元へとルリは駆け寄って行った。

fin.

prev / index / next

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -