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It's usual


「イゾウさんおはようです。今、大丈夫ですか…?」

ある晴れた日の朝、ルリはイゾウの部屋を訪ねていた。

「髪を結うのを手伝って欲しいんですけど…」

先日の戦闘で左肩を強打してしまったルリは、包帯でしっかりとその肩を固定されていて見るからに痛々しい。
昨日までは髪を結わないままで数日を過ごしたが、矢張り邪魔で書類仕事もやり難かった。
ナースに頼もうかとも思ったが朝は白ひげの検診で慌しい事が明白なので、イゾウに頼みに来たのだった。

「あァ、じゃあ甲板に出てやるか」

言いながらイゾウは優美な彫り物が施された小引き出しから一本の簪を選ぶと、ルリと共に部屋を後にした。



まだ人の少ない甲板に日陰を見つけ、そこに腰を下ろす。
確か夏島が近いと航海士が言っていた。その為日陰でも肌寒い事は無く、頬を撫でる風が心地好い。

ルリ愛用の柘植の櫛を使いイゾウの手で丁寧に梳き解された髪が、風にさらさらと流れる。

「良く手入れされたいい櫛だな」
「母親から貰った唯一の物なんです」
「あァ、だからか。ルリの髪と相性がいい」
「わたしはイゾウさんみたいな綺麗な黒髪が良かったのに」
「今度染めてみるか?」
「黒髪、似合うと思います?」

ルリなら似合うに決まってる、なんてさらっと言われ仄かに赤くなる。
背中を向けていて良かったと安堵するルリだが、赤く染まった耳を見たイゾウが満足気に目を細めている事に気付く筈も無く。

「頭動かすなよ?」
「あ、束ねるだけで…」
「いいから前向いてな」

幾つかのパーツに分けられた髪が、器用に編み込まれていく。
人の手で髪型が作られていく慣れない感覚が妙にくすぐったい。しかもそれがイゾウの手なのだから尚更だ。

「肩、まだ傷むのか?」
「そんなでもないですよ?大袈裟にされちゃってるだけで」

明るく答えるルリだったが、自分の居ない所で負った怪我にイゾウは無意識に唇を噛み締めていた。

「あんまり心配させるんじゃねェぞ?」
「…はい…」

左から右に向かって編み込んで頭の低い位置で束ねた髪をくるりと纏めると、その根元に簪を挿す。

「よし、終いだ」

そう言って差し出された手鏡に、瑠璃紺の飾り玉が付いた簪が映る。

「綺麗…」
「瑠璃紺色だからな、ルリに似合いの色だ」
「ありがとです、イゾウさん」
「治るまでやってやるから明日も来な?」
「はい」

微笑むルリと瑠璃紺の飾りが、朝日を受けてキラキラと輝く。


そしてイゾウの密かな目論見通り。
綺麗に編まれたそれと簪を褒める人こそ居たがルリの頭を撫でる人はその日一日現れなかった。

fin.

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