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I 'm greedy modestly


「マルコーちょっくらルリ借りるぜ?」
「ああ、構わねぇよい」

サッチがルリを「借りに」来るという事は、仕事を手伝って欲しいという事だ。
先日大きな島で大量に食料を仕入れたのでその管理…と言うのは表向きで、実際はルリの悪魔の実の能力で食材を最良の状態にする作業だった。

「わりーなールリ。マジ助かるわ」

食事はクルーの士気に関わる。長い航海に於いて、食材の管理は重要な仕事だ。
ルリのお陰で食材のロスは全くと言って良い程無くなるので、大所帯のモビーにとって有難かった。
しかも人に使うのと違い、植物に使う分にはルリの体への負担も無いので安心だった。

食糧庫に入ると、必ず入口の鍵を掛ける。
ルリが能力者だということは公には隠しているので、不意の入室者を防ぐ為にそうする事が暗黙の了解になっていた。

「ん、こんなもんかな」
「さんきゅー。これで次の島まで何とかなるわ」

1時間程で作業は終わり、二人は食堂へと戻って行く。
仕込みに入るサッチとカウンター席で向き合い、お礼にと出されたタルトをルリは笑顔で頬張る。

「疲れてねーかよ?」
「全然。あの位どうって事ないよ?」

カウンター越しに会話する二人を遠巻きに見ている数人のクルーが居た。
視線を感じたルリが振り返ったが、見知った顔ではない。
尤も1600人ものクルー全てがお互いを知っている訳ではないので、特に気にした様子もなくそのままサッチとの会話に戻っていった。




「だからよ、マジでそれはちげぇって」
「でも俺見たんすよ」
「さっきから何やってんだ、エース」
「げ、イゾウ隊長…」

先ほどから喧しかった甲板の隅の輪に顔を覗かせたイゾウに対し、明らさまに気まずい顔で視線を反らすクルーたちをイゾウは軽く一瞥する。

「こいつらがおかしな事言ってんだよ」
「あ?」
「サッチとルリが食糧庫に鍵掛けてその…ナニしてたって」
「あァ…」

すぐに用件に思い当たって特に気にした素振りも見せないイゾウに不審の目を向けながら、そのクルーは続ける。

「サッチ隊長探してたらルリさんと食糧庫に入るの見えたんで、前で少し待ったけど出て来ないし鍵掛かってるし…つまり、そーいう事じゃ無いっすか」
「だからちげぇって言ってんだろ」
「でもイゾウ隊長居るのにルリさんがそんな…」
「いや?俺のモンじゃねェよ」

今はまだな、と云う言葉は敢えて飲み込んで答えたイゾウだが、誤解とは云えルリをそういう女だと思われるのは正直面白くない。

「は?え?そうなんすか?じゃあ別にサッチ隊長とどうこうなろうが関係無かったんすね」
「だからサッチとルリもそんなんじゃねぇって」
「…確かに俺のじゃねェが、な」

イゾウは手にした煙管をスッと向けて、両眼を見据えながら抑揚の無い声で続ける。

「だからってルリに手ェ出したり、余計な事吹いて回ったら――判ってるよなァ?」

銃口を向けられた訳でもないのに固まって動けない若いクルーたちの姿を、自分だったら絶対にトラウマになる、とエースは憐れみを込めた目で見ている。

「…ま、そういう事だ!おめぇらもあんま変な事ばっか言ってんじゃねぇぞ」

未だ射竦められたまま動けないクルーたちを残し、エースとイゾウはその場を立ち去った。

「つか今のって、イゾウのモンって事じゃねぇの?」
「あ?何か言ったかエース」
「…何も言ってません」
「噂でもサッチってのが、面白くねェよなァ」

紫煙を吐きながらそう呟いたイゾウに、エースは訳が判らないといった顔を向ける。

「マルコなら良かったのか?」
「いや?敢えて言うならお前だな」
「俺?ルリは家族だからそんな風に思ってねぇぞ?」
「だからだよ、エース」

顔に疑問を貼り付けたままのエースと共に、イゾウは食堂の扉を開けた。

「あ、イゾウさん」

笑顔で二人を迎えるルリの後ろに見えるサッチに向かって、イゾウは真っ直ぐ進んで行く。

「…何かイゾウから殺気がびしびし来るのは気の所為デスカ?」
「サッチ、何かしたの?」
「してねーよ。多分」

当惑するサッチに何も言わぬまま、イゾウはゆっくりと銃口を向ける。

「っは!?」
「サッチよ、取り敢えず黙って一発喰らってみねェか」
「…全力でお断りします」
「何だよ、ツレねェなァ」
「ちょ、マジで何よ!?落ち着こうぜイゾウ」

鮮やかな紅で彩られた口端を愉しげに歪めたイゾウを見て、ルリは小さくため息をついて告げる。

「サッチ、取り敢えず逃げた方がいいと思う」
「気が合うな、俺っちもそう思ってた所だ」

「気が合う」という言葉にピクリと眉を動かしたイゾウを見た瞬間、やっちまったという顔で全力で駆け出したサッチと、それを追うイゾウをルリとエースは手を振って送り出す。

「サッチー!夕メシ作るまでに帰って来いよー!」
「なんかよく判んないけど、イゾウさん機嫌良いみたいだからいっか…」
「おう、ルリは気にしなくて大丈夫だ」

交わされたやり取りとイゾウの胸の内を、ルリは知る由も無く。
穏やかな午後のモビーに、逃げ惑うサッチの声が響いていた。

fin.

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