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Position


今日もモビーは平和だ。
尤も、海賊船に於いて平和なんて退屈以外の何物でもない。

そんな平和な空気を打ち壊しにやって来た命知らずな一団。
待ちに待った敵船の登場だった。


「今日こそはウチが出るぞ」
「いい加減動かねぇと体が鈍っちまう」

続々と甲板に集まる隊長たち。すぐさま出番決めのじゃんけんが始まる。
結果に一喜一憂する隊員が其処彼処でざわめく。

「よっしゃぁ!暴れてくるぞ!!」
「ちっ、ツイてねーな」

今日の出陣は1.2.7.16番隊に決まった。マルコから指示を受けた各隊は、それぞれ持ち場へと散る。
負けた隊長たちは仕方なく高みの見物だ。

船首に配置されたマルコ擁する1番隊。
隊員たちは愛用の獲物を手に、今か今かと敵船の接近を待ち構える。
そんな隊員を後方からのんびり眺めるマルコとルリ。

「マルコ隊長は行かないんですか?」
「出る幕でもねぇだろい」
「ここは若い奴に…ってヤツですね?」
「おっさん扱いするんじゃねぇよい。ルリも前に出ない癖に」
「わたしはここで良いんです」

そう言って両脚のホルスターから愛銃を取り出すルリも、普段とは違う高揚した目つきでぐるりと甲板を見渡す。

左舷には嬉々とした様子のエース、右舷にはラクヨウ、船尾にはイゾウ。
接近戦になる事の多い左右に、いつでも後方支援に回れる様配された前後の隊。
突発的に決まった隊ですぐに最適な布陣を敷けるのは、流石マルコだ。

ルリは船尾で自隊に指示を出すイゾウで視線を止める。
オヤジの誇りが描かれたその背中を守っていたのは自分だった。今は立つ人の居ないその位置に誰かが立つ日が来るかも知れないと思うと、きゅっと胸が締め付けられる。

(やば、敵襲前だってのに…気合入れなきゃ)

無意識に下がっていた視線を上げると、いつの間にかこちらを見ていたイゾウと視線が合う。
かつて戦闘前にしていた様に右手の銃を目の前に掲げると、重なるように掲げて返してくるイゾウ。
距離は有るけれど確かに触れ合ったその感覚に一気に満たされたルリは、気を引き締めて迫り来る敵船と向き合った。



命知らずな一団と云え白ひげに挑もうという連中だ、無策では無い。
四方から一斉に攻めてくるその数に、予想外の苦戦を強いられていた。とは云え見物する隊長たちが動く様子が無い所を見れば、戦いの終幕は近いと誰もが思っていた。

「マルコ隊長!!」

モビーに近づく大きな気配を感じたルリが叫んだその時、船尾側の海中から低い轟音が響き、船首が一瞬大きく前に傾いた。
海底を隠れて進んできていたコーティング船が体当たりで浮上して来た衝撃だった。

「ちっ、味な真似してくれるよい!」

あの程度でダメージを受けるモビーでは無いが、様子を確認するためにマルコが不死鳥化して飛び上がる。
ルリも体勢を立て直して、後方に目をやった。

(イゾウさん・・・!)

仮にも白ひげ海賊団の一隊だ。あれ位の奇策で崩される訳は無いと頭で判ってはいても、心がそれを掻き乱す。

「ルリ!前に出れる奴何人か連れて行って来いよい!」

マルコの言葉に、ルリは甲板を全速力で駆ける。
同じく船尾へと走っていたエースが勢い良く敵船へと飛び移ったのを確認すると同時に刀を抜き、モビーへ乗り移ろうとしていた敵を一刀のもとに斬り伏せた。

「派手な登場だなァ」

戦闘中だというのに平時と変わらず妖艶な笑みを浮かべるイゾウに、ルリは刀に付いた血を一振りして鞘に戻しながら駆け寄る。

「つい勢いで、刀抜いちゃいました…」
「あァ、久々に珍しいモン見れたな。俺たちも行くぞルリ」

エースに続けと敵船へ乗り移る隊員たちの援護をしながら、ルリとイゾウも敵船へと乗り込む。

意識せずとも立ち位置は、かつてと同じその場所。
背中から感じる熱に、気配に。体で覚えているその感覚にルリの口角は自然と持ち上がる。

「イゾウさん」
「あ?」
「やっぱりイゾウさんの後ろ、気持ちいです」
「…当たりめぇだ、何で俺がそこを……」

エースが派手に立てた爆発音にイゾウの言葉は掻き消された。

「はい?」
「ちっ、何でもねェ…黙ってそこに立ってな」
「はい…!」


程なくして敵は一掃され、我先にと船内詮索へと走って行くモビーのクルー達。

「お疲れさん、ルリ」

そう言ってイゾウが銃を持った右手を前に出す。一瞬小さく息を飲み、コツン、と自らの愛銃を重ねるルリ。

「イゾウさんも、お疲れです」

今度は確かに其処に在る感覚。
満面の笑みで応えたルリの頭に手を遣り、髪を撫で下ろした手で背中をぽんと叩くと、イゾウはモビーの方を顎で指し示す。

「マルコがお待ちかねだ」
「やば…忘れてた…。行ってきます、イゾウさん」

軽い足取りでモビーへと戻るルリの背中を見送ったイゾウは煙管に火を入れ、ゆっくりとその後を追ってモビーへと戻って行った。

fin.

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