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Father!


宴なんて日常茶飯事のモビーだが、その日はいつも以上に盛大な宴が開かれていた。

今日は父の日だ。

普段からオヤジに感謝してない奴なんか居ねェし、感謝するのに態々口実なんかいらねェがそれでもやっぱり特別な気持ちにはなる。

そんな日だってのに、遅れてやって来た長男と一人娘。

ったく、今日くらい書類仕事は後回しにしやがれと思っていれば、案の定「遅せぇじゃねぇか!」とグラグラ笑うオヤジの声。
首に手を当てて小さく頭を下げているマルコの横でごめんなさいと両手を合わせるルリがオヤジに向かって両手を伸ばすと、ひょいっと肩に担ぎ上げられた。
ずるいとか羨ましいとか彼方此方から声が上がる中、ルリが笑顔でオヤジの首に抱きつくと更に大きな歓声が上がる。

「オヤジもルリには甘ぇよなー」
「大事な一人娘だからな、甘やかしもする」

自分達だって妹に甘い癖に他人事のように言うサッチとビスタはその可愛い妹が来るのを心待ちにしている様だが、オヤジから降りたルリは道すがら其処彼処で酒を注がれたり頭を撫でられたりでなかなか進んで来ない。

「モテモテだな、アイツ」
「ルリを担いだオヤジが笑顔だったから皆嬉しいんだろう」
「そろそろ迎えに行ってやった方が良いんじゃねーの?」

お前が行けとばかりにサッチが視線を寄越すのを気付かない振りで立ち上がる。言われなくたって他の奴に行かす積もりはねェけどな。

「あー助かった…イゾウさんありがとです」
「随分可愛がられてんじゃねェか」
「今日の主役は親父なのにね。みんな相手を間違ってる」

満更でもない顔でそう言いながらルリは手にした一升瓶をひょいっと掲げる。途中でくすねて来たらしい。

暫くしてオヤジがナースに連れられ船内に戻ってもお開きになる筈も無く。俺たちの周りにも大量の空き瓶が並んでいる。幾ら飲もうが酔い潰れる様な柔な面子じゃねェが、テンションは嫌でも高くなる。

俺の横に座るルリもしれっとした顔で度数の高い酒を流し込みながら、楽しそうにけらけらと笑っていた。

「そう云えば、ルリがオヤジに抱きついた時のマルコの顔見たか?」
「ああ、おれもやりたいよいって顔だろ?」
「ぷ。何それ、凄い見たかった!」
「マジで?何処までオヤジ馬鹿なんだよアイツ」
「まぁ…気持ちは判るけどなァ」
「あれ?イゾウさんも抱き付きたかったです?」

抱き付かれてるオヤジが羨ましかったので思わずそう言うと、勘違いしたルリがこっちを見て意外だといった表情を浮かべる。「うーん」と何かを考えてフフと小さく笑みを零し、事もあろうにがばりと俺の首に抱きついて来た。

「親父と間接ハグですよ。イゾウさん」

「ちょ!ルリちゃん何やっちゃってんの!?」
「いいなそれ!俺もやりてー!間接ハグ!!」

一瞬止まった思考が、咽るサッチと大ウケするエースの声に呼び戻される。「エースもやる?」なんて言うルリは大して酔っている風では無いが相当機嫌がいいみてェだ。
思わぬ役得に容赦なく緩む口元を隠そうと煙管を咥えると、甲板の様子を見回りに行っていたマルコが戻って来た。

「ルリ、そんな所で何してんだよい?」
「…マルコ隊長ごっこ!」
「よい…?」
「オヤジ、好きだよい」

そう言って再びむぎゅっと抱き付いて来るルリ。

「ぶふっ」
「ばっかこっち向いて噴き出すなよエース!」
「ルリよい…覚悟は出来てるんだろうな」

ゆらり、と近づくマルコ。俺はルリの背中にそっと腕を回す。

「マルコの真似で抱きつかれるってのは複雑なんだがなァ」
「…そこは考えてなかったです…」

逃げろ逃げろと囃し立てる奴らの声に、ルリを抱きかかえて立ち上がる。

「あーもう、こんなに楽しいのも全部親父のお陰!」

俺にしがみ付いてけらけら笑い涙目で嬉しそうに叫ぶルリに兄弟達は目を細める。
俺もオヤジのお陰で随分と美味しい思いをさせて貰えたみてェだ。

沢山の家族と今この時を与えてくれたオヤジに。

最上級の感謝を。

2013 father's day!

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