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Out of my hands


春島に近いその海域は、波も穏やかで空も澄み渡っている。
最近は書類仕事が多く部屋に篭っている時間が長かったルリは、気分転換に甲板で書類を纏めていた。

「ふぁ…気持ちいいけど眠くなる…」

ちょっとだけ横になろうと腰に差している刀を外し、寄り掛かかる木箱の間に立てかける。書類が風で飛ばぬ様に資料で押さえると、そのまま自らの左腕を枕に軽く体を丸めて眠りに落ちた。


(姿が見えねェと思ったらこんなとこに…寝てんのか…?)

眠っている事に気付き気配を潜めて近づいたイゾウは、無防備に投げ出された引き締まった細い脚に腰に巻く着物を掛けると、そっと横に腰を下ろした。

煙管を持つ左手を立てた片膝の上に載せ、空いている右手で甲板に散らばるルリの長く柔らかい髪に触れる。
同じワノ国出身なのに少し茶色い彼女の髪は、陽に当たると赤みを増してキラキラと輝く。
はらはらと風に髪を流して遊んでいると、一瞬ピクリとルリの指が動いて薄らと目蓋が開いた。

「悪ィ、起こしちまったか…?」

慌てて小さく声を掛けたが、夢でも見ていると思ったのだろう。言い終わる前に再び目蓋を閉じたルリは「イゾウさん…」と呟いてほんの少しだけ口元で孤を描く。
夢の中でまで自分の名前を口にした彼女を愛おしそうな目で見つめながら深く息を吐き、その髪にそっと口づけを落とすと、イゾウも静かに目を閉じた。



暫くして何かを掴んでいる感覚に、ルリはゆっくり意識を起こした。隣からはよく知る気配と香りがする。
そっと薄く目を開けて視線を遣ると、座ったまま眠るイゾウの着物の袖を緩く掴む自らの手。
その袖から伸びる指先が触れるのは、自らの髪。

(手を、繋いで寝てるみたい…)

そう思った途端、着物を掴む指先が微かに熱くなる。

温かい空気を手離したくなくて、ルリはそのまま再び目を閉じる。
肌は触れていなくても確かに感じる温もりを、もう少し。
どうか眠ったふりに気付かないでと願いながら。

もう少しだけ。

fin.

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