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回収したお宝に沸き立つ皆の声を聞きながら、独り空を眺める。
能力の反動で少し体がだるい。頭もぼんやりする。

ほんの半日モビーを離れただけなのに、無性にイゾウさんに会いたくて堪らなかった。

ただ座ってるだけでいいから。
隣に居たい。
声が聞きたい。

そんな事を考えながら膝を抱えた。


「ルリ?帰るよい」
「あ、はい…」

わたしを呼ぶ声に我に返る。
航海士長に挨拶をして、不死鳥化したマルコ隊長の背中に乗せて貰いモビーへと向かった。

「備品チェック、やり直さないと…」
「そんなのいつでも大丈夫だよい」
「せっかくチェックしたのに、ツイてないなぁ…」

何か喋ってないと意識を手放しそうで、必死に口を開く。
青い海原の中、白くて大きなモビーが見えて安堵する。

「マルコ隊長…少し眠い…です…」
「ルリまさか、能力使ったのかよい!?」

肯定の意味を込めてしがみ付く腕の力を強めた。

人に対して能力を使った時だけ、その反動で必ず眠くなる。力を使えば使うだけ深くて長い眠りに。

「先に言えよい!この馬鹿娘が」

頬に当たる風が強くなって、マルコ隊長が速度を上げた事が判った。
大きくなるモビーの甲板にイゾウさんの姿を見つけ、落ちそうな目蓋を必死に開けてその目を見る。刹那、イゾウさんが険しい顔をして一歩前に踏み出すのが見えた。

「イゾウ、受け止めろよい!」

そう叫ぶマルコ隊長の声を聞いたわたしの腕は力を失い、欲しかった白檀の香りに包まれた所で、意識は途切れた。




――生き物の細胞を活性化出来るこの能力者を喉から手が出るくらい欲しがる人が沢山居る。植物の育成や鉱物の精製に使う方が本来の使い方で、病気や怪我を必ずしも治せる訳でも無いのに。噂には尾鰭が付き物だ。人に使うとほんの少しずつ自らの命が削られて行くリスクの所為で、過去の能力者の中には凄惨な人生を送った人も少なくなかったと聞く。
だからわたしは能力者という事を出来るだけ隠して来た。



親父に能力を使おうとして「娘の命削って長生きしたい親が居るか、このアホンダラァ」と怒られた日の夢を見ていた。

目が覚めて視界に入ったのは、自分の部屋と良く似ているけど少し広い天井。
落ち着いた灯りとこの空気、意識を失う前に触れた香り。ああ、ここはイゾウさんの部屋だ。

「イゾウ、さん…?」
「ルリ?」

という事はここはイゾウさんのベッドで…イゾウさ、んの……

「はわ!?何でここに…」

慌てて起き上がろうとしたら、苦笑するイゾウさんに押し戻される。

「いいからそこで寝てな。怪我はねェって話だがまだ怠いんだろ?」
「はい…」
「気になって様子見に来る奴らを勝手にルリの部屋に入れる訳にいかねェからな。俺の部屋に運んだ。嫌だったか?」
「嫌じゃない、です…」

でもまさかイゾウさんのベッドで寝てたなんて…予想外でくらくらしてくる。

「イゾウさん…」
「どうした?」
「…会いたかった」

思わずそう言ってしまって布団を顔まで引き上げた所為で、余計にイゾウさんの香りに包まれてますます鼓動が早くなる。

「ったく、ルリは…」

呆れた様な呟きと共にぽふんと頭に手が降りてきて優しく頭を撫でられたと思ったら、こつんと軽く拳骨が落とされた。

「ふぇ!?」
「俺の居ない所で能力使うんじゃねェって説教してやろうと思ってたんだがなァ。そんな事言われたら怒れねェじゃねェか」
「ごめんなさい…」
「だいたいマルコに乗っかってる時に海に落ちたらどうする積もりだったんだ?アイツじゃ助けられねェって判ってんだろ?」
「イゾウさん、結局怒ってるし…」
「心配掛けるなって話さ。判るな?」
「はい…」
「判りゃいいんだ。あァ、そうだ…」


「おかえり、ルリ」
「…!ただいまです。イゾウさん」


そうして再び降りてきた大きな手が、今度は離れる事無く頭を撫で続けてくれて。

「ルリが助けた奴、無事だとさ」
「よかった…」
「お前さんの能力は厄介だからな…変な奴らに利用されたら堪らねェ。気をつけな?」
「はい」

いつもより少し饒舌なイゾウさんの様子に、どれだけ心配を掛けてしまったか判って胸が苦しくなる。
ああ、親父にも謝りに行かなきゃ。きっと心配してる。また怒られるかな。

でも今は…

「イゾウさん、このままここで眠ってもいいですか?」
「あァ、朝までゆっくり休みな」
「あ、でもそしたらイゾウさんが寝れないですよね。やっぱり自分の…」
「ルリが構わねェなら、一緒に寝るか?」
「は?え?あ、あの…」

寝る…?一緒に?イゾウさんと!?
構うとか構わないとかそんな…ウソでしょ?冗談だよね?

自分で蒔いた種とは云え、まさかの展開だ。今までに皆で雑魚寝とか甲板で一緒に寝てた事は有っても、部屋で二人だけで眠った事は一度も無い。イゾウさんのベッドに入ったのだって初めてなのに。

「船医とマルコにルリが目ぇ覚ましたって報告して来る。嫌ならその間に逃げな?」

一人動揺するわたしにそう言い残してイゾウさんは出て行ったけど、逃げる事なんて出来ない。
程なくして戻ってくる気配を感じて、頭まで布団を被って壁の方を向いた。
顔なんて絶対に見られないし見せられない。

部屋に戻って来るなりイゾウさんは、クツクツと楽しそうな笑い声を上げて。

「笑わないで下さい…」
「あァ、悪ぃ。予想通りでつい、な」

部屋の灯りが消えて、きしっとベッドが小さく音を立てて沈んだ。
ふっと布団が軽くなって、背中に近づくイゾウさんの温もりと香りにきゅっと身体が固くなる。

「そんなに緊張すんじゃねェよ。別に取って食おうって訳じゃねェんだ」
「う…判ってますけど…」
「こっち向きな?ルリ」
「は、い」

おずおずとイゾウさんの方へ体を向けると、頭と背中に腕が回されて心が跳ねる。
その距離と全身で感じるイゾウさんの存在に、呼吸すら忘れてしまう。
トントンと背中を優しく叩かれて、漸く静かに息を吐いた。

「いい子だ。ゆっくり休みな、ルリ」
「…おやすみなさい、イゾウさん」

目の前の広い胸元に顔を埋めてそっと衿元を掴むと静かに頭を撫でられて、その温かい感触に身を委ねながら眠りに落ちた。

今までで一番、イゾウさんを近くに感じた夜だった。

fin.

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