添い寝?
「ほへ…?もう一度言って貰えますか?」
「昼寝するから付き合いな」
「わたしはさっき起きたとこですけど……」
不寝番明けからの急なひと仕事を終え、それはそれは眠たい顔をしたイゾウさんが洗濯を干すわたしの元へふらりとやって来たのはついさっき。
そのまま座り込んでぼんやりと一服する姿に、だいぶお疲れの様だなぁと気に掛けていたら、気怠そうな欠伸に続いてわたしに話し掛ける声が聞こえた。
シーツの波を潜り抜け聞き直せば、まさかのお昼寝へのお誘い。数時間前に起きたばかりのわたしは、当然まだ眠くない。
「独り寝の気分じゃねェんだよ」
「むむ…」
添い寝をしろって事だろうか?でもまさかそんな…
これがサッチやラクヨウさんならば、どうぞお出掛け下さいと気安く言えるのに。幾らなんでもイゾウさんにそんな事、天地がひっくり返っても言えるはずがない。
「それはその…どっちですか?」
「何がだ?」
「それをする方とされる方、です…」
「同じじゃねェのか?」
「全然違いますって!気持ちの問題ですけど…」
「ふむ…じゃァルリはどっちがいいんだ?」
「何でわたしなんですか。お昼寝したいのはイゾウさんなのに」
「俺は眠れればどっちでも構わねェ。それに結果どうなるかなんて、火を見るよりも明らかだしな」
いつもと変わらぬ強さで細められた瞳は、すぐにまた眠気を纏ったそれに戻る。
睡眠の邪魔をしたい訳ではないので、ここは素直に従う方が良さそうだ。きっとこの様子ではイゾウさんはすぐに眠ってしまうだろう。残りの洗濯物はそれから干せばいいのだから。
真っ直ぐに自室へと向かったイゾウさんは、寝仕度もそこそこにシーツの中に潜り込む。
ベッドサイドに腰掛けてゆっくりとその背中をぽんぽんと撫でていたら、バサッとシーツが波打ちイゾウさんが起き上がった。
「ひゃあ…!」
ぐわんと動く景色。体勢を立て直す間も無く、イゾウさんの腕の中に閉じ込められてしまった。眠たいだけあって、わたしを包む体温はいつもより高い。
「ちょ、待って下さい…っ」
抱えられて動けない上半身から必死に腕だけを伸ばし、何とか脱いだブーツを布団の外に放った。
「わたし、眠くないのに…」
「いいからそのまま大人しくしてな」
むぎゅむぎゅと抱き枕よろしく抱き潰されて、呼吸をしようと顔をあげれば額に触れる柔らかい感触。
「…イゾウさんこそ、大人しく寝て下さい……」
今日のイゾウさんはどうしてしまったのだろう。何だかやたらと、その…甘えたになってる気がする。
じわじわ帯びる熱と緩む頬を隠すべく再び胸元に顔を埋めると、一つに束ねていた髪が解かれる感覚。
ゆっくりとイゾウさんの手で梳かれる感触が気持ちよくて、静かに目を閉じた。
***
「…寝てしまうとは……」
どのくらい眠ってしまったのだろう。眠る前と変わらずイゾウさんの腕の中に収まったままなので、然程時間は経っていないと思うのだけれど……
まさかイゾウさんより先に寝てしまうとは思わなかった。これではまるで、わたしがイゾウさんに添い寝をして貰ったみたいではないか。
「結果は分かる」イゾウさんがそう言った理由がようやく分かった。
悔し紛れにぺろりとシーツを捲ってやったのに、珍しくぐっすり寝入っているイゾウさんは微動だにしない。
調子に乗ったわたしは、引き結ばれたくちびるを人差し指でふにふにと突く。薄く漏れた呼吸が擽ったい。それでも動かないので今度はゆっくりとひと撫でしたそこは、さっきより少しだけ冷たい気がした。
「……!」
…甘かった。イゾウさんが起きないはずが無いのに。
わたしの指をはむと咥えてゆっくりと片目を開けたイゾウさんは、全身に眠気を纏っていた先ほどまでとはもう別人で。
「おはようございます…?」苦し紛れにそう呟いたわたしをニヤリと笑い、電光石火の勢いで捲れたシーツとわたしを元の位置に戻した。
あ、洗濯物。いつ干そう……
20150523
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