どんぐりっていうか烏合

 航海は順調で前途は洋々。
 モビーは今夜も、宴で大盛り上がり。
 そんな中周囲をぐるり隊長たちに囲まれたわたしは、場にそぐわない緊張感の真っ只中に居る。

「あ、オヤジは抜きだからな?」
「……マジですか……」

 逃げ道を塞がれ、皆の視線からも逃げられず。
 ……正直言って、お説教の方が100倍マシな気がするこの状況。

「うーん……」

 この船の中で好きなタイプ(見た目限定)は誰か――そんなとんでもない質問に、ポーズでも何でもなく、本気で頭を抱えるしかなかった。




「まず……サッチはナシね」

 何故か期待に満ちたキラキラの瞳に一言。だってそのテンションでずっと居られたらちょっと面倒くさい。
 ジョズ隊長は優しいけれど、見た目だけと言うならそこは考慮できないし……マルコ隊長は……ビスタ隊長は……一人一人思い浮かべては消し、浮かべては消しを繰り返しているうちに、ふとある事に気づく。

「エース……かな?」

 そこかしこからガタっと音がして、一気に場の空気が緩んだ。
 うとうととしていたエースが「呼んだか?」と起き上がるも、左右からその口に肉を突っ込まれ、黙らされてしまう。
 なんという仕打ち。

「ルリもやっぱり若いのが良いのかよ……」
「と言うか……隊長の中でまともなのってエースくらいだよね……?」
「「「は????」」」
「……だって、見た目限定でしょ?普通の髪型してるのって、エースだけだと思うんだけど……」
「見慣れすぎてて気付かなかったぜ……むしろエースが変だと思ってたぜ……」

 自慢のリーゼントを撫で付けていたサッチは、甲板を三層ほどブチ抜きそうな勢いで崩れ落ちた。
 ラクヨウさんとクリエルさんは肩を抱き合い励まし合い、互いのジョッキを飲ませ合っている。

 ……なんだろう、まるでわたしが物凄く悪い事をしたみたいに見えるこの状況は。

「質問に無理があるんだよー……」

 そもそも前提からして意地悪だと思う。見た目だけ、しかも一人だけ選べだなんて。
 それにその……普段みんなをそういう視点で見ていなかったので、改めて意識してしまうと、その……

「…………っ」

 ……艶やかな黒髪は綺麗で羨ましいし、スッとした目元も凛々しいし、男らしく豪快に笑う時の口元も素敵だと思うし、銃を握る手の骨張った指とか…………

「わ……わわゎ……」

 ダメだ、やっぱりダメ!!
 そういう事じゃないの、そんな目で見てないの。違う、違わないけど違うんだから!!

 ジョッキに残ったラムを一息で飲み干し、さっき以上にうんうん唸りだしたわたしに、右からはラムが注がれ、左から怪訝な視線が注がれている。涼しい目元で、びしびしと……

「どうした?」
「……悪酔いです」
「へぇ、滅多に酔わないルリが、何に酔ったんだか」
「……ハルタのその勘のいいところ、たまに腹立つ」
「ふふん。僕を選ばないからだよー」

 「例えでも何でも、負けるの悔しい」とは流石海賊。でも誰か一人選べと言ってきたのはそっちなのだ。

「はぁ……」
「災難だったな」
「そう思うなら、もっと早く止めて下さいよー……」

 めいっぱい恨めしげな視線を投げれば、涼しい顔で受け流される。
 そう、この人だって海賊なのだ……楽しくなりそうな展開に、みすみす水を差す筈がなかった。

「……モビーじゃなかったら、赤髪さんちの副船長とか……あ、冥王も素敵ですよねえ」

 なんだか悔しくなってきたので、ナースさんに人気の高い海賊を片っ端から口にしてみる。あとは誰だったかな?
 
「へぇ……ルリって意外と……ん?どうかしたイゾウ」
「別に何もねェ」
「……髭でも生やしたら?」
「何でそういう話になるんだ……行くぞ、ルリ」
「へ?」

 徐にわたしの腕を掴み立ち上がったイゾウさんに、引かれるままに動いた身体。長い時間座っていた所為で固まった足がもつれ、わたわたと慌てるわたしの手から絶妙なタイミングでジョッキを回収したのはハルタ。
 こういう時のこの二人の阿吽の呼吸は、流石としか言い様がない。

「ラムじゃ酔えねェ。酒取りに行くぞ」
「あ、賛成です」

 「行ってらっしゃーい」なんて暢気に手を振るハルタに、すっかり立ち直りラクヨウさん達の輪に混ざるサッチ。エースは口いっぱいのお肉で幸せそうだし、マルコ・ジョズ・ビスタ隊長は貫禄のマイペース。

 この中から一人選べだなんて、どだい無理な話なのだ。

「ルリ」
「はーい?」
「とっておきの酒を一本、部屋に隠してある」

 でも、それでももし、いつかそのうち、そんな時が来たら……

「……良いですね」

 その時、は。

(20160520



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