▼ Home「サッチ、おなかすいた」
「なんか今、すっげー珍しいセリフ聞いた気がすんだけど…」
珍しく椅子の背もたれを抱えてだらだらと言うルリに、咥えた煙草を落としそうになった。
「わたしだってお腹すくよ?」
「いや、それは分かってっけどよ」
「さつまいもごはんが、物凄く食べたいのです…」
あぁ、秋島が続いた所為か。
最近やたらと、イモだのキノコだのリクエストが多かったんだよな。
海賊風情が季節の食いモンだなんて笑い話みてーだが、コックとしては腕の見せ所だ。
「栗ごはんも悪くねェよな」
「イゾウもかよ…」
「あ、栗ごはんもいいなぁ…。サッチ、栗の在庫有ったっけ?」
「保存用の甘露煮だけだな」
「えー…じゃあさつまいもは?」
「この間エースが全部焼き芋にしてただろ?」
「そうだった…」
あからさまに気落ちしたルリの声を聞いたイゾウの反応は、得意の早撃ち並みに素早かった。
「サッチ、今すぐ栗拾って来な?」
「おいおいおい、無茶振りにも程が有るってんだよ!!」
「あ…マルコ隊長なら…」
「……一応聞くけどよ、それ誰が頼むんだ?」
「サッチに決まってんだろ」
「サッチお願い」
「お前ら、だんだん似て来たよな…」
不死鳥が籠ぶら下げて栗拾いに行く姿を想像すると傑作だが、その前に俺の生命が危ういっての。
「あー、この際モビーに栗の木植えちまおうぜ」
「3年も待てないよ?それにエースが燃やしそう」
「サッチは本当に阿呆だな」
「イゾウてめぇ…」
「あ…」
「どうした?」
「やっぱりモンブランが食べたい、な…?」
じーっと俺を見上げながら言ったルリの目線の先は…まさか…
「…あァ、成る程な」
「想像しちゃいました」
えへへと笑うルリと、柄にも無く爆笑するイゾウ。
「イゾウてめえ!笑い過ぎだっての!」
「あはは。ごめんねサッチ。わたし食料庫行ってきまーす」
フランスパンだなんだと言われた事は有るが、モンブランは初めてだ。
どいつもこいつも、俺の大事なリーゼントを何だと思ってやがる。
でも結局、頼まれたら嫌って言えねーのが俺で。
だって、家族に頼られてんだ。悪い気なんてしねーだろ?
小麦粉と卵の在庫を頭の中で計算しながら、袖を捲って俺の舞台へと向かう。
「イゾウさんイゾウさん、小豆見つけたから栗羊羹作りますか?」
両手いっぱいに食材を抱えて、笑顔でイゾウに話しかけるルリの顔に自分を重ねる。
食わせる相手を思って作れば、より一層美味くなるってな。
「サッチの分も、作るね」
「…おう」
イゾウから向けられた覇気は、軽くスルーしてやった。
沢山の家族と、美味い飯と。
後は、俺の横にもきれーな姉ちゃんが居てくれりゃ、言うことなしだ。
「わたしですみません…」
「どっかのクマかっての!…あ、やべ。口に出てた?」
拍手お礼文 〜2013.12.01
prev /
index /
next