過去拍手文 | ナノ

火種がなくとも煙は立つ

皆様から頂いたお祝いをHomeヒロインがイゾウさんへ届けます!※拍手から頂いたプレゼントが元ネタなので、若干メタです。

マルコ隊長には、見た事もない高級なお酒や菓子。
エースには、お肉、魚。そしてお肉。
サッチには、珍しい食材。
ビスタ隊長には各地の茶葉、ハルタには衣服……などなど、お誕生日に届く品には、隊長ごとに明確な特色がある。
ちなみに過去、親父宛てには船一隻や島一つなど、桁違いのものが届いた事があるらしい。四皇だからというだけでなく、親父の人柄がなせる業だと思うと、何とも誇らしい気持ちになる。
とにかくそんな訳で、モビーには毎月たくさんの贈り物が届く。
それを纏めるのがわたしの役割で、時にはおこぼれに預かれたりもするこの仕事を、実は毎回楽しみにしていたりする。


イゾウさん宛てに届く贈り物は、主に二つ。
まずお酒。こちらはマルコ隊長に負けず劣らず、珍しい銘柄が並ぶ。
そしてもう一つが手紙類。エース程ではないが女性人気の高いイゾウさんには、とにかく沢山のカードが届く。傘下の海賊、ナワバリの島の住人、街角で手配書を見ただけの人、そして敵対する海賊まで……とにかく幅が広い。男性からと思われるものも毎年幾つか見かけるけれど、それがどうなったのか……わたしは知らない。

「ん、これは冷やしておいた方がいいかな」

“日本酒”に類されるお酒が多いイゾウさん宛てでは珍しく、高級なシャンパンが一本混ざっていた。所謂お姉さんの店では見かける代物で、わたしの様な一般海賊には手の出ない逸品。

「さて、いい加減届けに行かないと……」

贈り物でぎっしりの木箱と、いつもより少しだけ強い覚悟を携えて、わたしはイゾウさんの部屋に向かう。
なにしろイゾウさんに会うのは、お誕生日の晩以来なのだ。

ギシギシと軋む木箱を引き摺りながら、今度この箱に小さな車輪を付けてもらおう、と考える。来月はジョズ隊長とデューさん、年が明けたらエースと、おめでたい日はまだまだ続く。

「お届けものでーす」
「あァ、ご苦労さん。重かっただろ?」

ノックも三回、いつも通り。
そう振る舞ったつもりだったし、イゾウさんの反応も変わりなかった。
当たり前だろう。「今日だけ」あの時そう言ったのは自分なのだから。
噛み締めた口唇は、あの時と同じ色、同じ香り。

「……今年も沢山ですよーここに並べますね」

お酒や手紙に混ざって反物に朱塗りの煙管、それにこれは……シルクのパジャマ?イゾウさんにパジャマだなんて考えた事はないけれど、似合うような気がする。気がするけれど、想像してはいけない気もする。しかも本人の前で……

「ん、これは……俺のじゃねェな」
「え!?」

脱線していた思考の所為で、目の前のイゾウさんの言葉に理解が追いつかなかった。
ひらひらと振られている封筒を受け取ると、開いた口から見えたのはチケットの様なもの。

「……なんですか、これ?」

そこには「お味噌汁を作ってもらえる券」の文字。親父に1日甘える券、というのが何年か前に届いた事が有るけれど(そういえばあれは使ったのかな?)これはまた……

「これ、サッチじゃなくて……?」
「よく見てみな。ルリを名指ししてあるぞ」
「え?うわ、ホントだ……」

なんでわたしなのだろう。というのが素直な疑問。
作るのが嫌なのではなく、普通に考えればコックでいいのに何故わざわざわたしに、という事。都合よく勘ぐれば、これがたまたまだとは思えない。知っている人、しかもそれなりに近くの……

「あぁ、やっぱりベイさんだ……」

予想通りの相手で笑うしかなかった。イゾウさんも仕方ねェなという表情で、次の封筒に手を伸ばしている。何処から情報を仕入れて来るのか、彼女からのカードの内容は年々エスカレートする一方なのだ。

「でもこういうのって、使いたい時に渡すものですよね。今から作ります??」
「……いや、いつでもいい。期限も回数も書いてねェしな」
「誕生日プレゼントなんだから、長くても一年ですよ?あ、でも……お味噌汁くらい、わたしで良ければいつでも作りま、す……よ……」

そんなつもりで言ったんじゃないのに、自分で気になって勝手に引っかかって、急激に恥ずかしくなった。タイミングの悪い事に、雑誌の『世界のプロポーズ特集』とやらの記事で、数日前にナースさん達が大いに盛り上っていた事を思い出してしまったのだ。

言葉を繋げなくて、わたしはまた一人体温を上げる。きゅっと結んだ口元でしっとりとした感触を生んでいるのは、イゾウさんから貰った口紅。
思い出すのは当然あの日の……

「昼間見てもいい色だな」
「あ……」

やっぱりばれていた。声につられて顔を上げると、思ったより近くにあった手がするりとわたしの髪を掬って遊び、離れた。
目に見えない筈の揺らぎに、イゾウさんは本当に敏い。気付かれると分かっていても、口には出さないで欲しいのに……とわたしが思う事を分かっていて言うのだ、この人は。

「っ、ダメですよ!?ほんっとうにこれ気に入ってて、だから普段も使いたいんです!だからダメです!!!」

間合いを詰めようとする気配を見せたイゾウさんを全力で制して、残りの手紙を押し付けるように手渡す。その分厚い束からこぼれた一枚を拾い上げる時、女性らしい文字で書かれた文章が目に入る。それはストレートで熱烈な、愛の告白……

「なァ、ルリ」
「は……、……い……イ、イゾウさんっ!!!!」

拾い上げた手紙は驚いて固まるわたしの指から抜き取られ、書庫行きの箱の中にそっと落とされた。
「ごちそうさん」音もなく動いた唇は確かにそう言っていて、憎たらしいまでの余裕がわたしから反撃の余地を奪う。

「もうイゾウさんなんて……あーもう……」
「俺なんてどうした?それよりこれ、飲んでくだろ?冷えてるって事は、そういうつもりだよな?」

わたしの事なんてまるっとお見通しのイゾウさんはにんまり笑い、何事もなかったかの様にシャンパンの栓を抜く。
そして勿論そのつもりだったわたしは、用意してきたグラスを取り出した。少し前に手に入れた、とっておきのシャンパングラス。

「あァ、流石だ。よく分かってる」

わたしの心を擽る極上の褒め言葉は、こぽこぽとグラスに注がれるシャンパンから薫る甘さと混じり、甘やかにわたしを満たしてゆく。

「今年もイゾウさんが良い日々を過ごせますように」

願わくばその日々の片隅に、わたしも。
そっと合わせたグラスの立てた音はわたし達の間を静かに抜けて、琥珀色の気泡に溶けた。

fin.
〜2017.02.11


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