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後生大事に

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「いただきまーす」

食事は長い航海に於ける楽しみの一つ。
サッチを始め腕利きのコックが多いモビーでは、陸に居る時と遜色のない食事が楽しめる。

今日のランチはフリッターの盛り合わせをメインに据えたプレート。
野菜に魚にお肉、食材整理だとサッチは言っていたけれど、色々なものが食べられて、わたしとしてはとても嬉しい。

「ああ、そろそろ次の段階に……それはそっちで頼みてえんだが」
「構わないが、それより例の……」

マルコ隊長とジョズ隊長は、打ち合わせをしながら片手間でひょいひょいと食事をしている。
ジョズ隊長はともかく、マルコ隊長は今口の中にあるものが肉か魚か分かっているのだろうか。「食事は腹が膨れればいい」が口癖のマルコ隊長は、いつもサッチに文句を言われている。

「うめえなこれ……ぐう……」

……エースもいつも通りの食中休み。
右を見ても左を見ても、いつもだいたい変わらない食事風景。
わたしはイゾウさんとハルタの三人で、のんびりと食事をする事が多い。

「ねえ、前から気になってたんだけどさ……ルリって、好きなものは最後に食べるタイプでしょ?」
「え……?」

言われて自分のお皿に視線をやれば確かに、付け合わせの野菜とペンネは食べ終え、海老のフリッターだけが二つ、ぽつんとお皿の端に残っている。

「あ、うん。そう、かも……?」
「やっぱりね。タルトの耳とか玉子のサンドイッチとか、だいたいいつも同じものが残ってるからさ」
「……なんと…………」

わざわざ意識した行動ではないから尚の事、改めて言われるとものすごく恥ずかしい。
自分の知らない癖を指摘された様で(実際そうなんだけれど)慌てて証拠隠滅とばかりに、残しておいた海老を口の中に押し込んだ。
うん……美味しい。
最後に好きな物を食べると、幸せな気持ちで食事を終われる気がするのだ。だからついつい……という事なんだと思う。

「……よく見てるじゃねェか」
「たまたまだよ。って言うかイゾウが気付いてなかったのが驚き」
「ええ!?普通はこんな事気付かないと思うよ?」

狼狽えるわたしにニッコリと笑い、涼しい顔で食後のコーヒーを啜るハルタを何故か苦々しい顔で一瞥したイゾウさんの最後の一口は、わたしと同じく海老。
それはイゾウさんの好きな食材の一つだ。

「あ、あのっ。イゾウさんは、好きなものをいつ食べます?」

俄かに冷えた空気を変えようと、特に考えもなく口にした。
だけだったのに……

「……どちらかと言えば俺も後からだな」
「うん、だろうね」

絶妙なタイミングで被せられた言葉。
ピキッと割れた空気に気付かない筈はないのに、ハルタは涼しい表情を崩さない。

「ぱっぱと食べるタイプのヤツが、後生大事に守り続けたりしないし」
「何が言いてェ」
「別に?物の例えだよ。ね?」
「え?うん?わたしにはよく分からない、けど……とりあえず、ご飯は楽しく食べたいなあ」
「ん?僕は楽しいよ。ねえ?」
「ねえ?じゃねェよ……ったく、いつもいつも……」

そう、これもある意味いつも通りなのだった。
二人はしょっちゅうこんなやり取りをしているけれど、決して喧嘩をしている訳ではない。
むしろ仲は良い方だと思う。

「残しといたら、ひょいっと横から攫われちゃうかもね?食い意地の張ったヤツ、あちこちに居るしさ」
「ええっ、それはいやかも……」
「ぷ……あはは、ほんっと、ルリは面白いな」
「ハルタてめェ、調子に乗り過ぎだ」
「本当の事じゃん。よし、お先ごちそうさま」

ふるふると震える肩を隠さずに席を立ったハルタの背中に、イゾウさんが舌打ちを一つ投げる。
マルコ隊長とビスタ隊長もいつの間にか食堂を出ていて、周囲に残っているのはわたし達二人と、眠るエース。
人の減った静かな食堂に、エースの寝息だけが響く。

「無意識って怖ェもんだな……」
「珍しいですよね。イゾウさんがハルタに言い負かされるなんて」
「いや、アレは……まァ、気にするな……」

(ついついかき回したくなるんだよなー)




「ん?おれか?おれは食いモンならなんでも一気に食うぞ」
「うん、エースは美味しそうに食べるから、ご飯もきっとご飯冥利につきてるよね」
「……なんだそれは」
「ルリって頭良いのに時々面白え事言うよな」
「ええ!?」
「……あァ、言うな」
「イゾウさんまで!?」

fin.
〜2016.04.03


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