過去拍手文 | ナノ

例えばこんな日常

「そういや、ルリって水着は着ねーの?」
「ん?よく着てるけど?」
「え?」
「え?」

朝食の席には些か相応しくない話題を、さらりと卓上に乗せたのはサッチ。
問われたわたしもまた、なんの躊躇いも無くさらりと答えてしまう。
だって今更…だよねぇ?

「いつも海に居るんだよ?流石に冬島海域では着てないけど……ってやだ、じっくり見ないでよ」
「あ…わりぃ…」
「…あのさぁ。イゾウが不寝番明けで寝てるからって、何て話してんのさ…」
「居たら聞かねーし」
「そりゃそうだろうけど。どうすんの?ルリ固まっちゃったよ」

サッチの隣でオムレツをパクパク口に運んでいたハルタの指摘に我に返った途端、じわじわと熱くなる頬。

「あ、いやその、イゾウさんは…と言うかわたしが何を着てるかなんて誰も気にしないと思うけど…?ほら、エースの弟さんのトコの若い子みたいに全開で着てる訳でもないし…あれ、なんか急に悲しくなってきた…」
「羞恥を捨てるには早いし、でも無防備で爛漫なのが許される程若くない。ま、難しい時期だよね」
「…その通りデス」
「ハルタ…容赦ねぇな……」

そう言われてしまうと、返す言葉が見つからない。

「わたし今は泳げないから…まぁ、不要なんだけど…やっぱりなんと言うか、見せるつもりなくても可愛いもの着たいし…ってこれ、説明必要な事!?」
「いや、いらねーな。ごちそーさん」
「ルリって…普段しっかりしてる癖に、テンパるとたまに凄い事言うよね」
「うう…」

聞こえた遠慮がちな笑い声で、周囲にしっかりと聞き耳を立てられていた事に気付き頭を抱える。
モビーにはナースさんや非戦闘員含め、それなりに女性が居る。ナースさんは天気の良い時には水着姿で日光浴をしているし(一応周囲は立入禁止にしてはいるけれど、そんな抑制有って無いようなモノだ)そうでなくても普段からあの通りで。逆に他の女の子は男所帯を意識してか、シンプルで露出の少ない服装の子が多い。
そして今現在、女性で唯一の戦闘要員のわたしは…動きやすさを重視しているので、比較的軽装気味では有る。でも雨の中での活動や、万が一海に落下した時の事を考えて、濡れても透けない素材や色の服を選んだり……当然うっかりが許される程若くない事を自覚して、一応これでも気は遣っているつもりだった。

「あ…」
「ん?」
「宴の話題でもあるまいし、朝からなんて話してんだ」
「ひっ…!」

ハルタの呟きに意識を戻すと、背後から聞こえたまさかの声にあられもない声を上げてしまう。だって、なんでこんなに早く……

「イ…ゾウさん……?まだ、夜ですよ…?」
「ぶふっ…ごふっ」

振り返る事なんて出来ず、訳の分からない事を口走ると、パンを口に入れた瞬間だったサッチが口を押さえ吹き出して噎せ、苦しそうに悶えている。

「妙に騒ついて眠れねェから来てみれば…」
「すごいね、イゾウって。何処かにセンサーでも付いてるわけ?」
「人をサイボーグみたいに言うんじゃねェよ」

もうこの際イゾウさんがサイボーグだったとしても構わない。でもそのやたらと察しの良い機能だけは全力で切って頂きたい。あと聞いた事を忘れるスイッチも付けて下さい。今すぐに……

「ルリ、俺にはそんなスイッチ付いてねェぞ?」
「ええっ!?なんで考えてた事が分かるんですか!?……あ…」

勢いで振り返ってしまった。
わたしの後ろの椅子に腰を下ろして居たイゾウさんは珍しくお腹を押さえて笑いを堪えていて、サッチとハルタは既に大爆笑していた。
酷い、みんな笑い過ぎだ。

「イゾウさん…」
「ん?」
「イゾウさんはまだ寝てるんです、これは夢です。だから起きたら忘れて下さい!」

請うように叫び、イゾウさんの額を指でえいっと押してそのまま全力で駆け出した。
勢いで触れてしまった指先が熱くて熱くて、ああ、やっぱりイゾウさんは人間なんだと訳の分からない事に納得していると、何故か込み上げてくる笑い。

部屋に戻り我に返ると、イゾウさんの顔を思い出しては悶絶し、枕を抱えたままで暫く動く事が出来なかった。
…ああ、明日からどうしよう……



「ぷ。スイッチ押してった…」
「意外と可愛い事すんなぁ。忘れてやれよ、イゾウ」
「サッチはそんな事より逃げた方がいいと思うけど?」
「遅ェよ…てめぇ、何想像しやがった…」
「何も想像なんて…シテマセンヨ…?」
「忘れた方がいいのは、てめぇの方だ」

その後食堂で起きた騒ぎの顛末をわたしが聞いたのは、翌日の事。

fin.
〜2015.02.13


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