Whisperingの買い物中のお話。
「ごめんなさい、急に付き合わせてしまって」
「いや?別に誰かと約束してた訳でもねェしな。オヤジやルリと過ごす方がよっぽどいい」
「そう言って貰えると、嬉しいです」
わたしの急な思い付きにイゾウさんを巻き込み街に出た目的は、親父と飲むお酒を仕入れる為。
こんな綺麗な月夜に親父が船室に篭って居るなんて、勿体無いから。
しかもそこにイゾウさんも一緒だなんて、こんな素敵な夜は無い。
「買い過ぎたと思ったのに…」
半樽とはいえ、易々と担いでしまったイゾウさん。
エースやサッチと比べたら線が細いし、肌も余り晒していないので意識した事が無かったのだけれど…
するりと捲れた袖口から覗く腕の筋とか筋肉とか、当たり前だけど男の人で。
「やっぱり、敵わないですね」
「何がだ?」
「イゾウさん、男の人なんだなあって」
「…ルリは今まで俺を何だと思ってたんだ?」
「あっ、違うんです!そうだけどそうじゃなくて…」
イゾウさんを男の人として見てないなんてとんでもない、むしろ誰よりも…ううん、とにかくそうじゃなくて…
「わたしがどれだけ頑張っても、追い付けない事だから…」
「そう云う事言うとは、意外だな」
「いえ、誤解しないで欲しいんです」
イゾウさんは変な誤解なんてしない人だけど、慌てて否定。イゾウさんには、ちゃんと正しく、わたしを理解していて欲しいから。
「わたしだから出来る事、っていうのも沢山有るし…性別とか種族とかでは無く、得手不得手って人によりますよね?」
「あァ」
「つまりとにかく…どれだけ鍛えてもわたしには無理な事なので、単純に素敵だなって思ってしまって…」
ポロリと零してしまった本音に慌てて取り繕おうとするも、続いたイゾウさんの発言にそんな事は全て吹っ飛んでしまう。
「力が抜ける様な事、言うんじゃねェよ…」
「え!?やだ、大丈夫ですか!?」
クツクツと、イゾウさんが肩を震わせて笑う度に揺れる樽にヒヤヒヤするも、両手いっぱいに酒瓶の入った紙袋を抱えたわたしにはなす術が無くて。
「そんなに慌てなくたって、落とさねェよ。なんならこっちで抱えて帰ってやろうか?」
「はい!?絶対そんなのダメです!」
空いている手をひらひらと、余裕たっぷりに笑うイゾウさんにはやっぱり色々な意味で敵わない。
だってほら、いつの間にか上手にさりげなく、話の矛先を変えてくれている。
「それなら…両手に酒樽の方が親父喜ぶんじゃ…」
「そうか?ルリは分かってねェな」
「イゾウさんも分かってないです」
お互いきっと分かってる、けど。
気付かない振りをし合う、なんて少し大人の振りした応酬も、親父の前に行くまで。
「親父、一緒に飲みませんか?今夜は月が綺麗ですよ」
「どうした二人して。月見酒か?グララララ!悪くねえな!」
ここからは、二人して子供の顔。
fin.
過去拍手文〜2014.10.14
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