過去拍手文 | ナノ

あまい一時

▼Home
ホワイトデー編のなんとなく続きです。


起きたら快晴だったので、一日のんびり過ごそうと決めた。

食堂の窓から、果てなく続く大海原を見つつコーヒーを一口。
良い薫りと共に熱い液体が喉を通ると、ゆっくり全身が目を覚ます。

最近はマルコ隊長の仕事量が比較的落ち着いていたし、幸い今日は船番でもない。
今日は一日、何をしようかなぁ…





「え、甲板出られないの…?」
「いや、出られないっつーかルリには出て欲しくないっつーか…」
「どうしたの??何か有った?」

サッチの歯切れの悪さには今イチ釈然としないけれど、物凄く出たかった訳ではない。
淹れ直してくれたコーヒーを素直に受け取り、手近な席に着いた。

「なんか…今日は人少ないね」
「そうか?いつも通りだろ?」
「…サッチ、なにか隠してる??」
「いや?別にー?」

分かりやすいその態度は、どうやら本気で隠そうとしてる訳ではないみたいだ。

また何か悪戯でも仕掛けてるのかな…

「んー、どうしよ」

16番隊も非番で鍛練の話も聞いていなかったから、イゾウさんが居るかと思ってここに来たんだけれど…

ふと視線を落とすと、カップの中のコーヒーが僅かに波打っていた。

「え…?」

航海は至極順調、モビーは全く揺れていない。
勿論、わたしも震えてない。

はて?とサッチに訊ねようと顔を上げたその時。
ピシッと派手に空気が震えた。
間違い様もない、これはイゾウさんとハルタの覇気だ。
しかも、戦闘中でもなかなかお目にかかれないくらい強烈な…

「ったく…なにやってんだよ、アイツら…」

ぐしゃっとリーゼントを掻き乱して、心底面倒くさい顔でサッチが立ち上がる。

「仕方ねーな…一緒に甲板出るか」
「わたしも行っていいの?」
「…むしろルリ以外に誰が居るのか、俺っちに教えてくれ」
「どういう事??」
「まぁ…行きゃー分かるよ」

柄の悪さ全開で(あ、海賊なんだから当たり前?)だらだらと歩き出したサッチの後をついて行く。

食堂の扉を出たら聞こえ始めた歓声の様な叫び声が、甲板に近づくにつれて大きくなった。
食堂に人が少なかった原因はこれか、と得心するも、何が起きているのかと不安が湧き上がる。


バン!と乱暴にサッチが扉を開けると、ふわりと暖かな光が差し込んだ。
うん、やっぱり今日は良い天気…じゃなくて…

「おーおー、派手にやってらぁ」
「イゾウさんとハルタ…?何してるの!?」

腰に手を当てて笑みを浮かべるハルタと、腕を組んで本気で苛ついてる時の顔をしているイゾウさん。

人垣の中心に居る二人は、明らかに対峙していた。
鍛練…て事は無いだろうし、宴の席ならまだしも真昼間から余興も無いだろう。

「何がどうしちゃったの?」
「んー…なんつーか…。ちょっとそこ空けろってんだ」

相変わらずはっきりしないサッチに腕を掴まれ、人垣を無理矢理掻き分けて進む。

「――だから、代わってやるって言ってるじゃねェか」
「ふーん、そんだけ?」
「十分だろ。それにこれは人前で話す事じゃねェ」

徐々にはっきり聞こえる二人の声。
視界が開けた途端、皆の視線を一斉に集めてしまい、反射的にサッチの陰に隠れる。

「サッチてめェ…連れて来んじゃねェつっただろ…役立たずが」
「へーへー、すんませんねっと」

うわ…イゾウさん、なんだかめちゃくちゃ機嫌悪い…

「サッチ…邪魔しないでって言ったじゃん。イゾウはさっさと見張り行けば?」
「え?イゾウさんが見張り??」

今日の見張りは12番隊のはずなのに…
何がどうなっているのかさっぱり分からないけれど、食堂でのサッチの態度とイゾウさんとハルタの発言で、なんとなくわたしが原因なんじゃないかと思った。
心当たりは無いけれど…

ふてぶてしさ全開で踵を返したイゾウさんを追いかけて良いのか分からずサッチを振り返れば、ぺぺっと手で払われる。
何だか楽しそうな顔……

「イゾウさん!待って下さいっ」

普段のイゾウさんからは想像つかないくらいの早さで振り切られそうになったのを必死に追いかけ、見張り台のマストに上る。

「わたしもお供しますね」
「…暇なんだな」
「今日は何もやる事なかったので、ちょうどいいんです」

つれない態度のイゾウさんの隣に強引に腰を下ろすと、ようやくこっちを見たイゾウさんは、小さなため息と共に緊張を解いた。

「…暇つぶしだと思えば、安いモンか」
「です。経緯がよく分からないですけど…もし、わたしが原因だったらごめんなさい」

思い切って口にしてみたら、無言でくしゃり、と少し乱暴に頭を撫でられた。

「いや、ルリは悪くねェよ。巻き込んで悪かったな」
「気にしないで下さいね?イゾウさんと見張り出来るなんて…わたしには贅沢な暇つぶしですから」

見渡す限り敵船は無し。
交代までの数時間、イゾウさんと二人で日向ぼっこ。

「それにしてもいい天気。日焼けしちゃいそうですねぇ…ふぁ!?」

ポツリと呟いたら、急に膝下に腕を入れて抱え上げられ、マストとイゾウさんの影に移動させられた。

「び…びっくりした…」

しれっと煙管に火を入れるイゾウさんの顔は、もうすっかりいつも通りで。
思わずふふっと笑いが零れた。

なんて幸せな休日。


* * *


「ルリ宛のメッセージを握り潰したイゾウが完全に悪いのにさ、何だろう、この敗北感…納得いかない」
「おい、ハルタそれ…。知らねーぞ?」
「ふん、こんくらい安いもんでしょ。結局あの二人がイチャイチャする口実作ってやっただけとかさ。あームカつく」

ぐちぐちとぼやき続けるハルタの手には、新品の一升瓶。
それがイゾウさんの部屋から勝手に持ち出された物だと、当然その時のわたし達に知る由は無い。

fin.
拍手お礼文 〜2014.07.06


prev / index / next
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -