最近、ノボリさんの様子がおかしい。…二週間程前のことだ。休憩中のノボリさんを何も考えずに眺めてたんだ。なにやってんだろうな〜ってさ。で、なにやってたと思う?いや、私は驚きすぎて五度見したわ。…本を読んでたんだけど、その表紙が…えと、所謂、萌え〜みたいな。お兄ちゃん、だいすき!みたいな。そんな…イラストが…表紙の本でして。うん…そっと席を立って何も見なかったことにしたよ。

考え込むように真剣な顔をしてるから何読んでるんだろうなと思ったら、萌えって…の、ノボリさん一体なにに目覚めたの!?その日からノボリさんはおかしいのだ。私を見てはそわそわし、ちょっと手がぶつかっただけで顔が真っ赤になったり、一番酷かったのはパンをくわえて私に突撃してきたやつだな。体当たりされた私は意味が分からずポカンとするしかなかったわ。ノボリさん?「第三段階目クリアですね…」と呟いたと思えば私を置いて走り去っていったのだ。そりゃもうすたこらさっさとな。

「な、なんなんだよ、全く!!」

なのでナマエさんはノボリさんに対して最近ちょっと苛々しているのです。家では普通なのにギアステに来たらスキル挙動不審が発動するノボリさんなのだ。本日何十回目かの溜め息を吐く。一体どうしたんだ……ん?なんだこの紙切れ…。鞄の中に見知らぬメモ紙が入っているではないか。…よ、読めん。だ、誰か…これを読んでくれ!その時、おーい、という気の抜けた声がして振り向けば、それ接客業としてどうなん?と言いたいくらい髭が伸び伸びしているクラウドのおっさん。

「ナマエどないしたんや?さっきから突っ立ったまんまやんか」

「…クラウド、これなんて書いてあるか読んでくれまいか?」

「ええで、かしてみ」

ひらりと私の手から紙を取り上げたクラウドだったが、何故か眉をひそめて小さく、はぁ?とか言ってるんですけど。なにその反応?そんなにその…アレなことが書いてるわけ?ちょ、凄く気になるわ!

「なんて?」

「…今日の十八時に、あのホームで待っています」

「……あ?」

ど、どういうこと?あのホームって何?いやそもそも何処にあるんだよ。渋い顔をしたクラウドがぐしゃりと紙を握り潰す。

「気色悪…。…ナマエ、お前…ストーカー被害に合ってるんか?」

「いや合ってないけど…確かに気味が悪い…。ちょっとしたホラーだよ」

「…こういうのは無視したがええんやないか?一応お前も女の子なんやし…」

一応てなんや一応て。俺の右手が真っ赤に唸りかけたが、本気で心配そうにするクラウドを見てそっと握り拳を解いた。いかんいかん。こういうことするから一応って言われるんだな。わぷ!!な、なに!?クラウドがわしわしと私の頭を撫で回しているではないか!髪が…!ボサボサになるやないか!!

「クラウド!」

「なんかあったらわしかボスたちにすぐに言うんやで。ええな?」

「……う、うぃ」

「よしよし!ほんなら、今日も一日気張っていこか!」

先程握り潰した紙をゴミ箱にポイッと投げ捨てクラウドは持ち場へと向かっていった。…まぁ気にしてもしょうがないよな。私もいくかな。まぁそんなこんなで私はその日を過ごしていったわけだ。お客様のカイリキーとローブシンに求愛されたりとなんとも慌ただしい一日だったがな!あ、あとコジョンドにも。なにこれ。格闘タイプは今が繁殖期なのかな?そうなのかな?いやコジョンドにはちょっとキュンってなったが私は気付いた。私…ポケモンだと…しかも格闘タイプだと思われている…?ば、馬鹿な…!!

…いや考えるのは止そうじゃないか。今考えるべきなのは今日の晩飯のメニューだな、うん。さぁて、帰りにスーパー寄って…あれとそれとこれと……あら?何だあれ?前方から何か黒いものが物凄い速さでこっちに来る…ってノボリさん!?いつもよりもキュッと口を結ぶノボリさん。な、なんでかな?涙目みたいに見えるのは気のせいかな?気のせいだよな?そんなノボリさんは私の目の前まで来るとピタリと足を止めた。そしてなんとボロボロと泣き出したではないか。その様に私は呆然とするしかなかった。

「わ、わたくし!ずっと、お待ちしておりましたのに!やっぱりわたくしでは駄目なのですか!?そうなのですかー!?」

待て待て待て。ナマエさん理解出来てないですよー?えっと、えっと、とりあえず泣き止んでくれ。頼むから。だがしかし変わらずノボリさんはえぐえぐ嗚咽を漏らしながら涙を流している。……あぁ、もう仕方がないなぁ。苦笑を浮かべながら私は、そりゃ!とノボリさんに抱きついた。頭を撫でてやりたかったが、如何せん背が足りんのでな。背中をぽんぽんと叩くことにする。

「……ナマエ、さま」

「あの…話聞くんで、移動しましょう?」

ここ通路やねん。普通に人がいるねん。めっちゃ見られてん。皆!勘違いするなよ!!私は悪くないんだからな!!私の言葉にこくんと頷いたノボリさんを引っ張り、執務室へと向かった。クダリさんはダブルトレインでバトル中らしく居なかったので安心した。何か言われるかもしれんだろ?それって面倒くさいからな。
そして静かになったノボリさんと向かい合わせに座る。テーブル越しの彼は漸く泣き止んでくれたがまだ鼻を啜っておりますよ。

「で……私が何かしたんですか?全く身に覚えがないですけど」

むしろ私が被害者な気がしてなりません。いやまじで。なんで私が悪いみたいなことになってるのか誰か説明しやがれってんだ。脳内のナマエさんたちが慌ただしく会議を行う中、バン!と机を叩く大きな音が響く。の、ノボリさん!?いや、あの確かに現実逃避した私が悪いけど物にあったら駄目ですよ!俯いて机に両手をつく彼に声をかけようとした時である。勢い良く顔を上げた彼の言葉に私は彫刻のように固まるわけだ。

「フラグとは!?」

まるで選手宣誓のように力強く、高らかに部屋中に響く彼の言葉。…って!ふ、フラグだと!?そこから始まるノボリさんの力説に私は白目を剥きかける。いやもしかしたら白目だったかもしれん…。おまけにあの本まで取り出してくるノボリさんに頭を抱えかけた私ですよ。

「…わたくし、今まで恋愛など分からなかったのですが、皆様このように一つ一つフラグを立てて恋愛を成就されていらっしゃるのですね…。恥ずかしくて全て読むのに一週間掛かりました…。ですが!ナマエ様との未来の為にわたくしは心に決めたのです!フラグを、立てると!…しかしながら、複雑なものは初めてなわたくしには難しすぎましたので…王道なものにしましたのに…ナマエ様とのフラグが立たないなんて!おかしいではありませんかー!?一体何がいけなかったというのですか…」

某トモダチラブなあの人もびっくりな早口地獄を繰り出すノボリさん。い、一体どこで息継ぎしてんの?って違う違う違う。今突っ込むべきはそこじゃねぇわ。…どうやら…わ、私と恋愛フラグを立てようとした結果、あのような奇行に走ったという事のようだ。ちょっと…いやかなり行き過ぎだよね。というかね、ゲームみたいにそんな上手くいくわけないでしょうが!!ほんっとに…もう。……こういうのを愛すべき馬鹿というのか。無言で立ち上がり、私はノボリさんの手から本を奪い取る。え?という顔をするノボリさんを放置し、ゴミ箱に視線を向ける。…左手は、添えるだけ。綺麗な弧を描きながら忌々しい本はゴミ箱の中に。ナイッシュー!!

「わたくしの教科書が…!!」

教科書て…そろそろ現実に戻ってきなさい。苦笑しながらノボリさんの手にそっと触れてみる。目を見開いた彼は、ぽぽぽ!と効果音がしそうな程に顔を赤くした。

「フラグに頼らなくても……わ、私はノボリさんの側にいますよ?」

「ナマエ様…」

やっと穏やかな表情になるノボリさんに微笑みかければ、彼はもう片方の手で私の頬を優しく撫でた。まっすぐ私を見つめる彼が少し照れるように笑う。なんとも可愛らしいではないか。すぐに暴走するけど……私はやっぱりノボリさんがだいすきなわけですよ。少しずつ近づいてくる端正な彼の顔。唇が触れる前にそっと目を閉じる。

……どうやら私がフラグを立てたみたいだな。


後書き

149aさまリクエストの「フラグとは!?」でしたー!こんなに長くなるなんて…予想してなかったでごわす← 因みにノボリさんが購入した本はギャルゲーの攻略本だったという裏話があります。恋愛下手なノボリさんには「これであの子もイチコロ!」というカバーだけで購入したみたいです(笑)ちょっとクラウドが出張ってごめんなさいです…><

ノボリさんのお馬鹿っぷりと夢主への愛が伝わるといいな…!それでは149aさま、素敵な台詞、そして企画に参加して下さりありがとうございました!!