今日は急いで帰らないといけない。何故なら…テンマくんが初出演したという映画が地上波初登場らしくてな。これを知ったのが昨日。そして知ったと同時に、私にはミッションが下されたのだ。"音速を超え、光速の速さで帰宅しろ"とな。脳内の私はイエッサー!と声高らかに敬礼を決めたわけだ。だって初々しいテンマくんだぜ?この目に焼き付けとかないといけないだろ?てなわけで私は急いで帰る準備をしている。…あと一時間…だと。うわわわわ!!テンマくんがががが!!

「……忘れ物はないな!よっしゃ!」

よしよし私は帰りますよ!テンマくんのために!!え?いやいや私は熱狂的なファンとかではなくてだな、ただテンマくんを応援してるだけでしてね。…おっと時間が無いのでした。鞄を抱えた時、にんまり笑顔なクダリさんが私に駆け寄ってきたではないか。

「ナマエ、今帰り?」

「うん…。ごめん、クダリさん…!私急いでるんだ!」

「あ、そっか…。今日、僕も帰るからね!」

「把握した!クダリさんの好きなもの作るわ!」

少し悲しそうなクダリさんに胸が痛んだが、今日の晩飯で帳消ししてくれよな!ニッと笑い手を振って私は走り出す。ギアステから我が家まで歩いて一時間はかかるかしら…。なれば、走るしかあるまいよ!!小脇に抱えたチラーミィが呆れたような顔してるが気にしないことにする。


*****


映画館的な雰囲気を出すために家の電気を消して、買っておいたポップコーンを貪っているのは、はーい、ナマエだよ。無事映画に間に合ったんだぜ。間に合ったんだが…さ、この話…ゾロアと少年…あ、テンマくんが演じてるんだけどね。うん、ゾロアとテンマくんの友情を描いたものなんだが、泣かせやがるわ…。

内容は凄くベタで、大人の都合で二人は離れ離れになってしまうわけだよ。んでもってゾロアはテンマくんを探し出す旅に出るんだ。その道中、みなしごハッチ並みの苦難、悲しみにぶち当たるも、彼はテンマくんの元に辿り着くのだ。テンマくんに抱きしめられて嬉しそうな声を上げるゾロアと、泣きながら笑うテンマくんを見たら…!な、涙が止まらない…!

「よ、良かったねぇぇええ!」

タオルがもうびっしょびしょ。もうこれ、タオルとしての意味を果たしてない。絞ったらナマエ汁百%が作れる気がする。なにそれ汚い。ちょっと想像して気持ち悪くなったわ。……そろそろご飯作らないとクダリさんが帰ってくるって言ってたしな…電気電気…。手探りでスイッチを探そうと立ち上がった瞬間だった。パチンと音が響いたかと思えば、部屋に明かりが灯ったではないか。え?あれ?電気が…あれ?

「ただいま〜。ナマエ寝てるのかと思っちゃった。真っ暗の中どうした…の…」

ドサッと鞄を落としそのまま硬直するクダリさんに私は焦る。ちょ、帰ってくるの早くない!?いつも深夜なのに!!まだご飯作ってないんですけど!?い、今から急いで作るから先にお風呂に入っておい……風呂の準備もしてねぇぇええ!!マイガッ!!完璧に油断してたわ。なんてこったい。と、とりあえずご飯だよね、うん。あとこのタオルを洗濯機にぶち込まないと…!!

「ちょ、ちょっと…待ってて下さいね。ご飯作るから…」

「まって」

無表情なクダリさんに手を掴まれた私はタオルを落としてしまう。ちょ、ちょ…ちょ!!私の足に落ちたタオルがびちょって…ちょ、クダリさんのお馬鹿さん!ぶふ!!顔が怖い顔が怖い。いつものスマイルはどうしたの。もしかして何処かに落としてきた?しょうがない。私が探してきてあげよう。だから手を離し…すみません。調子に乗りました。そんな私を見つめながら、こてん、とクダリさんが首を傾げる。

「なんで、泣いてるの?」

「…えーっと…」

テンマくん見て感動しました、てへぺろ。とか言える空気じゃないよね、うん。多分言ったら叩き潰されるんじゃなかろうか。これ以上身長を縮ませたくないわ!と、と、とととにかく誤魔化すしかない。なんとかこう……うまい具合に話をそらすしかあるまいよ。

「これはですね…。私の心の汗というやつでして…泣いたという表現は…んー、違いますね。……そう!私は汗をかいただけなのです!」

自分でも何を言っているのかと小一時間くらい問い詰めてやりたいよ、うん。…そう言い切る私を見つめいたクダリさんの無表情が崩れたと思った時には彼に抱きしめられていた私である。一瞬だけだったが、なんとも悲しそうな顔をしていた。ちくりと胸が痛む。ざ、罪悪感に襲われるとはまさにこのことやで。抱きしめるクダリさんが私の耳元で呟いた。

「そんなキミをほっとくわけにはいかないよ」

だから嘘吐くのはやめて、と言いながら抱きしめる力を強めるクダリさんに私はもう土下座したくなった。映画観てただけなんです…感動してただけなんです…。簡単にその言葉を言えたなら苦労はしないわ。…言えないけどね。そんなことを考えながらゆっくりクダリさんの背中に手を回す。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいなのだが、それ以上に嬉しいと思う自分をぶん殴りたいね、うん。

「…ちょっと、昔を思い出しただけです」

嘘も方便という言葉があってだな。今がまさにその時なんです。私も吐きたくて吐いてるわけじゃないんだ。信じてくれよな!内心心臓バクバクな私の言葉を聞いて、そっか…、というクダリさんがそっと離れる。少し悲しげな笑みを浮かべる彼が私の目元を優しく撫でた。

「ねぇ、ナマエは、寂しい…?」

私が泣いていた理由とは違うけども…寂しくない…といえば嘘になるかもしれん。未練は無かったけど多少は…まぁ、寂しい。だがここには三匹にノボリさん、クダリさんが…私の大切な人たちがいるから…。

「あなたたちが側にいてくれるから私は平気です。ほら、クダリさんが帰ってきてくれたから涙も止まったし!」

ニッと口角を上げてみれば、一瞬驚いたように目を見開いたクダリさんだったが、すぐにいつものにんまり笑顔を浮かべてみせた。ん、クダリさんが笑顔だと私も嬉しい。……こんな風に、クダリさんも思ってくれているのか。うわ!は、恥ずかしい!!なんてことを私は考えているのだ…!ちょ、ちょっとクダリさんの顔直視出来ない!そう思ったとき何故か私の身体は勝手に動いていて、クダリさんの胸に飛び込んでいた。クダリさんが驚いたように声を上げたが、私だって驚いている。なにやってんの?ねぇ私なにやってんの?あぁ、私のお馬鹿さん。

「今日のナマエ、甘えん坊さん」

「…ご、ごめんなさい」

「ううん、僕嬉しい!…また寂しくなったらいって?寂しくないようにギュッてして、頭なでなでしてあげる!あと…」

両手で私の顔を持ち上げたかと思うと彼はぺろりと私の目じりを舐めたではありませんか。衝撃で固まる私に、えへへ、と照れたような笑みを見せるクダリさんが口を開く。

「僕がキミの涙を拭ってあげるからね」

あんたそれ口説き文句やで。などと言える余裕をあいにく持ち合わせていない私は顔に熱が集まるのを感じながら、舐められるのはちょっとなぁ…と呟くことしか出来なかった。……そんなにな、愛おしそうな目で見るな。恥ずかしくて大爆発するぞ。
…もう一人で泣ける映画を見ない。クダリさんの腕の中でそう固く誓うナマエさんなのでした。


後書き

レイコちゃんリクエストの「そんなキミをほっとくわけにはいかないよ」でしたー!な、長く書きすぎてしまった…。読みづらさ百%でごめんなさい!…大好きな人が泣いていたらなんとかしたいと思いますよね。やっぱりきらきらした笑顔が一番なんです、うん。そんなわけでクダリさんには全力で夢主のことを心配してもらいました〜。

夢主とクダリさんには無意識にいちゃいちゃしてもらいたい…←
ほんの少しでもほのぼのして頂けたら嬉しいです…!では、レイコちゃん!素敵な台詞、そして企画に参加して下さりありがとうございましたー!